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2021.03.09
経営

小売業界注目「RaaS」とは?事例や誕生の背景、今後について解説

ここ最近、小売業界では「RaaS(ラース)」というビジネスワードが注目されています。これは「Retail as a Service」の頭文字をとった略称で、直訳すると「小売(Retail)のサービス化」という意味になります。

本記事では、RaaSの正しい意味を知り、自らのビジネスをさらに加速化させたい経営者の方に向け、RaaSが生まれた背景や具体的な事例、さらにRaaSの今後の展開について解説します。

小売業界のRaaSとは

RaaSとは、各小売企業がこれまでに獲得してきた膨大な顧客データや、テクノロジー等の資産を活用し、他の企業に向けたBtoBサービスの提供を行い新たな収益を創出する取り組みのことです。

最新のテクノロジーと小売企業が持つ膨大な顧客データをかけあわせることで、新たな顧客体験を生み出そうとする試みが、いままさに熱を帯び活発化しています。

RaaSのビジネスモデル

RaaSのビジネスモデルは1つに限定されるものでなく、さまざまな角度から収益につなげられる可能性を秘めています。

一例を挙げると、世界最大手の食品スーパー「Kroger(クローガー)」は、データ基盤やITソリューションを提供していたMicrosoft社とタッグを組み、無人レジシステムを開発。このシステムを自社スーパーで活用するだけでなく、他の小売企業にも提供を行い、収益を上げるビジネスモデルを構築しています。

また、RaaSソリューション提供企業である「b8ta(ベータ)」は、メーカーから月額固定の出品料を徴収し、「b8ta」が構える実店舗でメーカーの製品を展示・販売するというビジネスを展開。販売数に関わらず一定の料金で済むサブスクリプション形式を採用し、店舗で商品が売れてもマージンは不要。売上金額は100%メーカーに入る仕組みです。

メーカーは実店舗を構えるリスクを回避しつつ、効率よく商品を市場に出せるというメリットがあり、Win-Winのビジネスモデルとなっています。

RaaSのビジネスモデルを代表する、この「Kroger」と「b8ta」の事例については、後ほど詳しく取り上げます。

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Robotics as a Serviceとの違い

Robotics as a Serviceとの違い

RaaSには、「Retail as a Service」ではなく、「Robotics as a Service(ロボティクス・アズ・サービス)」を略した用語も存在します。頭文字をつなげると同スペルになりますが、こちらは「ロボティクス(Robotics)のサービス化」を意味するもので、概念が異なります。

本記事で取り上げるRaaSは、すべて「小売(Retail)のサービス化」を指すものです。誤解のないよう注意してください。

RaaSが生まれた背景

RaaSが生まれた背景

RaaSが生まれた背景には、O2Oやオムニチャネルなどの、既存のビジネスモデルの行き詰まりがあるとされています。

  • O2O:オンラインからオフラインの実店舗への「誘導」を目的とする施策
  • オムニチャネル:オンライン・オフラインを問わずユーザーの「囲い込み」を図る施策

いずれも顧客数の増加と長期的な目線での売上アップが期待できる施策ですが、IoT・AI技術の発展に伴い、購買経路がかつてないほど多様化した現在では、これまでのような効果は見込めなくなってきています。

購買経路・行動の変化

かつては何かを買いたいと思ったら、「お店に行って陳列棚の前で商品を選んで買う」という行動が主流で、マーケティング戦略も概してシンプルでした。しかし現在では、サブスクリプションによる定額課金サービスや、フリマアプリなどの個人間取引サービスが広く普及し、一口に「買物」といってもその手段は限定されることなく、モノやサービスが手に入る時代になっています。

これまでは、あらゆる広告手法で自社製品の認知度を高め、スムーズに店舗に誘導して製品をレジに持っていかせ、コツコツと売上を積み上げることこそが小売事業者の“あるべき姿”とされていました。

しかし現在では、日々の暮らしの中に点在する多様な情報接点や購買経路を活用しながら、お客様と継続的な関係性を作り上げ、LTV(Life Time Value=顧客生涯価値)を高めていく、という点が重視されます。こうした環境の変化において、RaaSは生まれるべくして生まれた概念なのです。

O2Oとは

O2Oとは「Online to Offline」の略語で、オンラインとオフラインを連携させて購買活動を促進させるという、マーケティング施策のひとつです。代表的なものとしては、割引クーポンの配布や、スマートフォンのチェックインクーポンの配信などが挙げられます。

元々O2Oは、実店舗では商品のチェックだけを行い、購入はインターネット経由で最安値を選択するという「店舗のショールルーム化」を防ぐための対策として広まったという経緯があります。その後は、新規顧客を獲得するための施策としても幅広く活用されるようになりました。

オムニチャネルとは

オムニチャネルとは、あらゆるメディアで顧客との接点を作り、オンラインとオフラインの垣根を超えた、シームレスな購入体験をさせるという販売戦略です。

こちらも元はといえば、前述の「店舗のショールルーム化」対策のために始まったもので、大手小売業が中心となり、実店舗とインターネットを統合した販売システムを構築しました。実店舗とECサイトの区別を無くすことで、顧客がどこで購入しても小売り側は同等の利益を確保でき、逆に顧客もすべての(オムニ)チャネル(接点)から均一化された価格と便利さを得ることができるというものです。

RaaSの事例

RaaSの成功事例として、先述の「Kroger」「b8ta」、そしてGAFAの一角である「Amazon」の3社の取り組みを紹介します。

RaaSのビジネスモデルは多種多様です。事例をヒントとし、貴社に最適なRaaS戦略を考えてみてください。

Kroger

世界最大手の食品スーパー「Kroger」は、2019年からMicrosoft社とパートナーシップを結び、RaaSを用いたデジタル小売戦略を展開しています。

Krogerが持つ膨大な顧客データと、Microsoft Azureのアルゴリズムを結び付け、スマートシェルフ「EDGE Shelf」の開発を実現。これによって、電子タグによる商品管理システムを用いた画期的な「無人レジ」が誕生しました。

ユーザーは、スマホアプリで棚にある商品のバーコードを読み込み、買物終了後にセルフレジで支払うことで、「Kroger」のすべての品物を簡単に購入することが可能となりました。さらにこの購入履歴をデータ化し、AIアルゴリズムで分析することで、顧客一人ひとりの特性に応じた情報を提示。これまでにない、まったく新しい購買体験を提供しています。

さらにこの無人レジシステムは、自社利用だけでなくRaaSサービスとして商品化し、他の小売業者に販売しています。「Kroger」は、小売事業のみならず、RaaSが生み出した新しいビジネスモデルの構築にも成功しているのです。

b8ta

「b8ta」は2015年に米国サンフランシスコで創業した、RaaSソリューションに特化したサービス企業です。さまざまなメーカーの商品を展示する「体験型ストア」を設置し、代理販売を行う事業が基幹ビジネスとなっています。

体験ストア内では、商品のデモンストレーション画像を流したり、実際に手に取って試してもらったりすることで、ユーザーの購買行動を促進。メーカーはストア内の区画の利用料を支払うことで、実店舗を構えるリスクを減らしつつ、効果的に自社製品をユーザーに訴求できます。

また、店頭にディスプレイする製品はいつでもオンライン上で変更でき、新商品なども手軽に出品が可能。店内に設置されたカメラで消費者の行動をウォッチすることもでき、それらのデータを利用してマーケティングに活用することもできます。

「b8ta」の体験型ストアは、米国のみならずドバイにも出店が進んでいます。既存ストアへはすでに1,000以上のメーカー・ブランドが出店し、5,000万以上のエンゲージメント(消費者と商品の関わり)を取得しており、今後ますますの発展が見込まれています。

Amazon

世界最大のEC企業「Amazon」は、RaaSサービスの一環として「Amazon Go(アマゾン・ゴー)」を展開しています。

「Amazon Go」とは、レジなしで購入・決済が可能な“無人コンビニ”のような店舗で、入店して品物を持って店を出ると同時に、専用アプリを通じて自動的にAmazonアカウントで代金が清算されるという仕組みです。最新のデジタル技術を駆使し、小売業の常識を覆す顧客体験を実現したことで、RaaSの代表事例として大きな話題を集めています。

さらに2020年3月には、「Amazon Go」ですでに成功済みの決済システム「Just Walk Out」を、小売業向けのRaaSサービスとして販売開始。また、「Amazon Go」の実店舗もさらなる増店を計画しており、2021年までには3,000店舗に達する見込みです。

RaaSのこれから

RaaSのこれから

徐々に浸透しつつあるRaaSですが、今後はデジタルベンダーと小売企業の距離がますます縮まることによって、その浸透スピードはさらに速まると予測されています。

これまで、デジタルサービスとはベンダーが開発するものであり、小売業者はそのサービスを購入して利用するだけでした。しかしこの先は、ベンダーと小売業者が互いの課題を共有し、協業してデジタルサービスを開発するようになっていくでしょう。「Kroger」が、Microsoftと開発した無人レジサービスを他企業へ販売したように、小売企業の事業がさらに多様化していくことは十分に考えられます。

またRaaSの発展に伴って、実店舗では、流通業者を通さずメーカーが直接販売する「D2C(Direct to Consumer)」が加速していくと考えられます。「b8ta」の事例のように、“商品を体験してもらう場所”という目的のために店舗を運用するRaaS企業が増えていけば、メーカーは実店舗を持たなくとも広告・プロモーションの機会を確保する敷居は格段に下がっていくでしょう。

さらにD2Cが行いやすくなる土壌が整い、今後はオンライン・オフラインの境界がより曖昧になったOMO(Online Merges with Offline)社会がスタンダードになっていくでしょう。

RaaSとPOSデータは深く関わっている

RaaSの浸透および発展は、いままさに急速なスピードで伸びていますが、このRaaSのベースにはPOSデータがあります。顧客の購買金額や、およその年代、性別、来店タイミングや頻度などのデータをすべて一元管理できるPOSレジシステムは、RaaSとの相性が極めて良く、小売業にとっては今後さらに欠かせないものとなっていくでしょう。

小規模店舗においても、POSデータを最大限に活用することにより、新たな顧客体験の提供が可能となる未来はすぐそこまで迫ってきています。

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