飲食店の損益分岐点とは~計算方法やシミュレーションと利益率向上施策

飲食店を健全に経営する上で、「損益分岐点」というキーワードは欠かせません。いくら繁盛している飲食店でも、売上を上回るコストがかかっていては、いずれ経営に行き詰ってしまうからです。
本記事では、飲食店経営を赤字にしないための指標となる「損益分岐点」について紹介し、その計算方法や利益率を上げる方法について詳しく解説します。
飲食店における損益分岐点とは
損益分岐点とは、文字通りお店店舗の「損失」と「利益」の分かれ道となる数値のことです。売上高と運営にかかるコストの額がちょうど等しくなる点のことを指しており、この時点の売上高のことを「損益分岐点売上高」と呼んでいます。
つまり損益分岐点とは、経営する飲食店が赤字にも黒字にもならない“プラスマイナスゼロ”の地点のことで、売上高が損益分岐点を超えれば、そのお店は儲かっていることになります。
飲食店における損益分岐点の平均
飲食店の損益分岐点比率は、業態や店舗規模によって異なりますが、80〜90%前後が平均的な目安とされています。比率が80%程度であれば収益に余裕があり、一時的な売上減少にも耐えやすい状態です。
一方で90%を超える場合、固定費や人件費の負担が大きく、経営改善が必要な水準といえます。
損益分岐点比率とは、売上高と損益分岐点の比率のことで、以下の計算式で算出することができます。
損益分岐点比率 = 損益分岐点 ÷ 売上高 × 100
ここでのポイントは、損益分岐点と比較して実際の売上高がどれくらい上回っているかになります。比率が低いほど赤字への耐性があり収益性が高いといえます。一般企業では損益分岐点比率は80~90%程度で、90%を超えると経営の見直しが必要とされていますが、飲食店では90%を切る企業はほとんどありません。
売上を伸ばすことで損益分岐点比率を下げることができますが、飲食店においては同時に変動費も増加してしまいます。そのため、飲食店においては固定費をなるべく低くすることが大切になります。
損益分岐点を構成する費用
飲食店の損益分岐点は、主に「変動費」と「固定費」のコストから構成されています。それぞれの内容と特徴を詳しく見ていきましょう。※変動費と固定費の具体例はあくまでも典型例です。
変動費
「変動費」とは、飲食店を経営する際にかかるコストの中で、お店の売上にともなって毎月変動する費用のことです。飲食店経営における変動費には、以下のようなものがあります。
- 食材原価
- 水道光熱費
- 販促費(広告費など)
変動費のうち一番わかりやすいのは食材原価です。ランチ・ディナー問わず来店客数が多く、注文数が増えた日はその分だけ材料費が多くかかることになり、また逆もしかりです。
そのほか、水道光熱費や広告出稿などにかける販促費も、売上高によって金額が大きく変わります。
固定費
「固定費」とは、その月の売上高が多い少ないにかかわらず、毎月変わらず発生するコストのことです。飲食店経営における固定費には、以下のようなものがあります。
- 家賃
- 固定資産税
- 人件費
- リース料
- 減価償却費
- 支払利息
飲食店の固定費で大きなウェイトを占めるものが、店舗の家賃や固定資産税です。ショッピングモールのテナントなど賃貸借契約をしている店舗の場合は毎月の家賃が発生し、賃貸でなく購入した場合は土地や建物の固定資産税を支払わなくてはなりません。
飲食店における損益分岐点の計算方法
飲食店の経営を安定させるためには、損益分岐点を正確に把握することが大切です。「どのくらいの売上で黒字になるのか」「今のコスト構成で利益が出ているのか」を数値で確認できれば、経営判断や価格設定にも活かせます。
ここでは、損益分岐点を求めるための基本的な計算式と、実際のシミュレーション例を紹介します。
基本の計算式
飲食店の損益分岐点は、以下の計算式で算出できます。
損益分岐点 = 固定費 ÷ (1 – (変動費 ÷ 売上高))
損益分岐点を明らかにして、お店が儲かっているのかを確認するためには、まず毎月の正確な変動費と固定費をはじき出す必要があります。
飲食店の損益分岐点シミュレーション
前項の計算式を実際の飲食店経営に当てはめ、シミュレーションしてみましょう。例として、毎月の売上が350万のレストランで、変動費105万円、固定費210万円がかかるケースで計算してみると次のようになります。
損益分岐点 = 固定費 ÷ (1 – (変動費 ÷ 売上高))
= 210 ÷ (1 – 105 ÷ 350)
= 210 ÷ (1 – 0.3)
= 210 ÷ 0.7
= 300
このレストランの損益分岐点売上高は300万円となり、月に350万円の売上がある今の状態は“黒字”ということになります。
このように、自店の売上高・変動費・固定費の3つの数字を把握していれば、損益分岐点売上高を確認することができます。
損益分岐点を把握する必要性
ここでは、損益分岐点を把握する必要性を紹介します。
- 経営判断の基準を明確にできる
- リスク管理に役立つ
- 販売戦略や施策立案に活用できる
詳しく見ていきましょう。
経営判断の基準を明確にできる
損益分岐点を把握していれば、「1日あたり何人の来客が必要か」「ランチとディナーでどの程度の売上を確保すべきか」といった経営上の判断基準を数値で明確にできます。
目標を具体的な数字で設定できるため、漠然とした勘や経験頼りの経営ではなく、根拠のある意思決定が可能です。数字にもとづいた判断は、従業員への目標共有や改善計画の策定にも役立つでしょう。
また、組織としての行動を統一することにもつながります。
リスク管理に役立つ
損益分岐点を理解しておけば、売上が想定より下がった際に「どの水準まで下がると赤字に転じるのか」といった把握が可能です。閑散期や不測の事態が発生した場合でも、早い段階でリスクを察知し、コスト削減や販促強化といった打ち手を講じやすくなります。
また、損益分岐点をもとにシミュレーションしておけば、急な原価高騰や人件費上昇が発生しても、どこまでのコスト増なら耐えられるかを見極められます。
販売戦略や施策立案に活用できる
新しいメニューの導入や広告施策を検討する際にも、損益分岐点は有効な指標となります。「追加コストが発生した場合、どの程度の売上増でカバーできるか」を数値でシミュレーションできるため、感覚ではなく根拠にもとづいた投資判断が可能です。
これにより、施策の費用対効果を明確にし、戦略の精度を高めながら、無駄なコストを抑える経営へとつなげられます。
損益分岐点を把握・管理する方法
損益分岐点は一度計算して終わりではなく、定期的に見直し・管理することで経営の安定につながります。
飲食店では、食材価格や光熱費の変動、スタッフの入れ替えなどによってコスト構造が変わりやすい傾向があります。そのため、今の利益構造を常に可視化する仕組みづくりが重要なポイントです。
ここでは、日常業務の中で損益分岐点を継続的に管理する2つの方法を紹介します。
エクセルで管理する方法
損益分岐点はエクセルで管理することができます。また、インターネット上には無料で公開されているテンプレートもあるため、エクセルに不慣れな人はそれらを活用してもよいでしょう。
参考サイト:エクセルで作る飲食店メニュー
ツールを活用した管理方法
効率的に損益分岐点を管理したい場合は、クラウド型会計ソフトやPOSレジシステムの活用がおすすめです。売上や経費データを自動で集計できるため、損益分岐点をリアルタイムで可視化できます。
これによって、日々の入力や手計算の手間を削減でき、数字が苦手な方でも無理なく分析が行えるでしょう。さらに、売上分析や顧客管理、在庫管理などを一括で行えるシステムであれば、経営全体の効率化にもつながります。
ツールを導入することで、単なる数字の把握にとどまらず、経営改善につながるヒントを導き出せます。具体的には、下記のような視点でデータを分析可能です。
- どの時間帯・メニューが利益を押し上げているか
- 原価率や人件費が高い要因はどこにあるか
こうしたデータをもとに、利益構造を継続的に見直せる点が大きなメリットです。なかでも飲食店専用のPOSレジなら、オペレーション効率化と数値管理の両立が可能です。
ただし、POSレジはサービスごとに搭載機能や料金体系が大きく異なるため、「どれを選べばよいのかわからない」と悩む経営者も少なくありません。飲食店では、オーダー管理やキッチン連携など、業態に特化した機能が必要になるケースが多いため、事前の比較検討が重要です。
以下の記事では、飲食店におすすめのPOSレジを比較していますので、あわせてご覧ください。
関連記事:【2025最新】飲食店向けPOSレジを10社比較!ランキングに惑わされないおすすめの選び方
損益分岐点を改善しにくい飲食店の特徴
利益率が低い飲食店の特徴として、次の内容があげられます。
- メニューの価格設定に問題がある
- 人件費が利益を圧迫している
- 売上に対して固定費が高い
それぞれの特徴の詳細を解説します。
メニューの価格設定に問題がある
メニューの価格設定は、飲食店の利益率に直接的な影響を与える重要な要素です。適切な価格設定がなされていない場合、原価率が高くなり、利益を圧迫します。
競合店との価格競争に巻き込まれ、必要以上に安価な価格設定をしてしまうケースがあるでしょう。近隣店舗の価格に合わせるあまり、原材料費を十分にカバーできない価格で提供せざるを得なくなり、結果として利益率が低下しかねません。
また、メニュー構成のバランスも重要な要素です。利益率の高い商品と低い商品のバランスが適切でない場合、店舗全体の利益率は低下します。特に、売れ筋商品の利益率が低く、利益率の高い商品があまり売れない状況は、経営を圧迫する原因です。 定期的な価格の見直しと、メニュー構成の最適化が必要不可欠です。
人件費が利益を圧迫している
人件費が利益を圧迫している場合も、利益率低下の要因です。一方で、飲食店の人件費管理は、収益性と従業員満足度でバランスをとらなければなりません。
一般的に、売上高に対する適正な人件費比率は20〜30%とされていますが、この数値を単純に追求するだけでは、本質的な問題解決とはならないでしょう。
人件費の過度な削減は、短期的にはコスト削減効果が見られるものの、長期的には深刻な問題を引き起こしかねません。サービス品質の低下による顧客満足度の悪化や、従業員の離職率上昇による採用・教育コストの増加、さらには熟練スタッフの流出による店舗オペレーションの非効率化などが懸念点です。 人件費比率は単独で評価するのではなく、売上高や客単価、回転率、従業員一人当たりの生産性など、他の経営指標と合わせて総合的に分析することが重要です。
関連記事:飲食店のFLコストとは?FL利率や営業利益率、エクセルの管理方法も解説!
売上に対して固定費が高い
飲食店経営で、売上に対して固定費が高すぎる状況は、経営の不安定さを引き起こす大きな要因です。固定費は売上の増減に関わらず一定額が発生するため、過度に高い固定費は、特に売上が低調な時期に深刻な経営圧迫の要因となるでしょう。
固定費の中でも特に重要なのが家賃で、一般的に売上高の10%以内に抑えることが望ましいとされています。10%を大きく超える場合、売上が好調な時期でも十分な利益を確保できません。そのため、立地選定の段階から、想定売上に対する適切な家賃水準を慎重に検討する必要があります。 一方で、固定費の削減に成功すれば、その効果は継続的に得られる利点があります。家賃の見直しや光熱費の契約変更などを実現できれば、以降毎月の支出削減につながり、長期的な収益改善に大きく貢献するでしょう。
飲食店の損益分岐点を改善する方法
飲食店の損益分岐点を下げる場合、次の方法が考えられます。
- 固定費の削減
- 変動費の削減
- 売上を上げる
それぞれの詳しい内容を解説します。
家賃や水道光熱費などの固定費を見直す
飲食店の固定費削減は、損益分岐点を下げる効果的な方法です。特に家賃は固定費の中で大きな割合を占めるため、大家との値下げ交渉は重要な取り組みの1つです。長期入居を前提とした場合、安定的なテナントとしての価値を示すことで、オーナー側も前向きな検討をしやすくなるでしょう。
また、通信費や電気代などのコストも、契約プランの見直しにより削減が可能です。例えば、電力会社の切り替えや、インターネット回線の見直しなどが考えられます。 固定費は売上の増減に関わらず発生し続ける費用であるため、削減は直接的な利益向上につながります。特に売上が不安定な飲食業界では、固定費を可能な限り抑制することで、経営の安定性を高められることがメリットです。
食材費や仕入れを工夫して変動費を抑える
飲食店の変動費削減は、即効性のある経営改善策の1つです。特に原材料費と人件費は、工夫次第で迅速な効果が期待できます。
原材料費の削減では、仕入先の見直しや新規開拓が効果的です。複数の業者から見積もりを取り、価格交渉を行うことで、品質を維持しながらコストを抑えられます。また、メニュー開発を通じて、より原価率の低い商品構成への変更も効果がみられるでしょう。
人件費はシフトの最適化が重要ですが、過度な削減は避けるべきです。従業員の勤務日数を急激に減らすことは、スタッフの離職やモチベーション低下を招きかねません。また、必要最低限の人員を確保できないと、サービスの質が低下し、顧客満足度に影響を与える可能性があります。 変動費削減は慎重に計画を立て、従業員との対話を重視しながら進めることが重要です。
集客や単価アップで売上を伸ばす
売上高の増加は、固定費や変動費を変えることなく損益分岐点比率を下げる有効な方法です。商品単価の見直し、セット販売による顧客単価の向上、または販売数量の増加などを通じて実現できるでしょう。
一方で、売上増加を達成するには、広告宣伝費の投入や、サービス提供のための追加人員確保など、新たな費用が発生する可能性があることを考慮しなければなりません。SNS広告を打つことで集客は増えるかもしれませんが、広告費用が利益を圧迫する可能性もあります。 売上増加策を実施する際は、それに伴う費用増加を最小限に抑える工夫も必要です。既存の人員やリソースで対応可能な範囲での施策を優先的に検討し、費用対効果を慎重に見極めながら進めることで、効果的な損益分岐点の低下を実現できます。
とくに、SNS広告を打つべきか、既存顧客のリピート施策を優先すべきかで、費用対効果は大きく変わります。実際に成功している飲食店の事例を参考にすれば、自店舗でも再現性の高い戦略を立てられるでしょう。
以下の記事では、売上アップの具体的な方法や成功事例を詳しく解説していますので、あわせて参考にしてください。
関連記事:飲食店の売上アップする方法とは?成功事例も合わせて徹底解
損益分岐点の改善は利益率向上にもつながる
損益分岐点を下げる取り組みは、経営の安定化だけでなく、利益率の向上にも直結します。損益分岐点を下げることで、同じ売上でも黒字に転じるまでのハードルが低くなり、限られた売上でも効率的に利益を確保できるためです。
一度この構造を整えれば、売上が一時的に減っても赤字になりにくく、安定した経営基盤を維持できます。利益率を高めるために意識したいポイントは、下記の3つです。
利益率を高めるために意識したいポイント
| 取り組み内容 | 目的・効果 |
|---|---|
| 損益計算書(PL)を作成して収支を見える化する | 売上・原価・人件費などの費用構造を把握し、無駄な支出を発見できる・データにもとづいた経営判断が可能になる |
| FLコストを管理し、50%台を目安に抑える | 食材費と人件費のバランスを最適化し、利益を圧迫しないコスト構造を維持できる |
| 回転数を上げて売上効率を高める | 同じ席数でも売上を増やし、損益分岐点を下げられる |
これらを継続的に実践することで、数字にもとづく経営判断が可能になります。損益分岐点の改善と、利益率の底上げを同時に実現できるでしょう。
まとめ
飲食店経営にとって、損益分岐点に関わる数字を把握しておくことはとても大切です。脱サラした飲食店経営者には「数字が苦手」という方も少なくありませんが、一度損益分岐点をつかんでしまえば、後はそんなに複雑な計算は必要ありません。正確な損益計算書(PL)を作成し、経営上の問題をすぐに把握できるようにしてみてください。
ポスタスの資料ダウンロード
以下のフォームにご入力の上、資料をダウンロードしてください。
ご入力いただいたメールアドレス宛に資料ダウンロードのURLを送信致します。
よくある質問
損益分岐点とは、文字通りお店の「損失」と「利益」の分かれ道となる数値のことです。売上高と、運営にかかるコストの額がちょうど等しくなる点のことを指しており、この時点の売上高のことを「損益分岐点売上高」と呼んでいます。
飲食店の損益分岐点は「損益分岐点 = 固定費 ÷ (1 – (変動費 ÷ 売上高))」で算出できます。損益分岐点を明らかにして、お店が儲かっているのかを確認するためには、まず毎月の正確な変動費と固定費をはじき出す必要があります。
飲食店の損益分岐点比率は、一般的に業態や規模によって異なりますが、平均的には80〜90%程度が目安です。
ただし、業態によって大きく異なり、居酒屋やバーなどのアルコール中心の店舗は比較的低く、一方でランチ中心の定食屋やカフェはやや高めになる傾向があります。比率が高いほど経営が不安定になりやすいため、固定費や変動費の削減、売上向上などの施策を通じて、できるだけ低い水準を目指すことが大切です。
詳しくは「飲食店における損益分岐点比率」を参考にしてみてください。
飲食店の粗利率は、業態によって異なりますが、一般的に65〜75%が目安です。業態別では、居酒屋やバーなどのアルコール提供店は70〜80%と高めで、ファストフードや定食屋は60〜70%、高級料理店は65〜75%程度が一般的です。
アルコール類は原価率が低いため、提供比率が高い店舗ほど粗利率は高くなる傾向にあります。ただし、これはあくまで目安であり、立地や客層、提供する料理のジャンルによっても適正な粗利率は変動します