飲食店の損益分岐点とは~計算方法やシミュレーションと利益率向上施策
飲食店を健全に経営する上で、「損益分岐点」というキーワードは欠かせません。いくら繁盛している飲食店でも、売上を上回るコストがかかっていては、いずれ経営に行き詰ってしまうからです。
本記事では、飲食店経営を赤字にしないための指標となる「損益分岐点」について紹介し、その計算方法や利益率を上げる方法について詳しく解説します。
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飲食店における損益分岐点とは

損益分岐点とは
損益分岐点とは、文字通りお店の「損失」と「利益」の分かれ道となる数値のことです。売上高と、運営にかかるコストの額がちょうど等しくなる点のことを指しており、この時点の売上高のことを「損益分岐点売上高」と呼んでいます。
つまり損益分岐点とは、経営する飲食店が赤字にも黒字にもならない“プラスマイナスゼロ”の地点のことで、売上高が損益分岐点を超えれば、そのお店は儲かっていることになります。
変動費
「変動費」とは、飲食店を経営する際にかかるコストの中で、お店の売上にともなって毎月変動する費用のことです。飲食店経営における変動費には、以下のようなものがあります。
- 食材原価
- 水道光熱費
- 販促費(広告費など)
変動費のうち一番わかりやすいのは食材原価です。ランチ・ディナー問わず来店客数が多く、注文数が増えた日はその分だけ材料費が多くかかることになり、また逆もしかりです。
そのほか、水道光熱費や広告出稿などにかける販促費も、売上高によって金額が大きく変わります。


固定費
「固定費」とは、その月の売上高が多い少ないにかかわらず、毎月変わらず発生するコストのことです。飲食店経営における固定費には、以下のようなものがあります。
- 家賃
- 固定資産税
- 人件費
- リース料
- 減価償却費
- 支払利息
飲食店の固定費で大きなウェイトを占めるものが、店舗の家賃や固定資産税です。ショッピングモールのテナントなど賃貸借契約をしている店舗の場合は毎月の家賃が発生し、賃貸でなく購入した場合は土地や建物の固定資産税を支払わなくてはなりません。
損益分岐点の計算方法
飲食店の損益分岐点は、以下の計算式で算出できます。
損益分岐点 = 固定費 ÷ (1 – (変動費 ÷ 売上高))
損益分岐点を明らかにして、お店が儲かっているのかを確認するためには、まず毎月の正確な変動費と固定費をはじき出す必要があります。
飲食店の損益分岐点シミュレーション
前項の計算式を実際の飲食店経営に当てはめ、シミュレーションしてみましょう。例として、毎月の売上が350万のレストランで、変動費105万円、固定費210万円がかかるケースで計算してみると次のようになります。
損益分岐点 = 固定費 ÷ (1 – (変動費 ÷ 売上高))
= 210 ÷ (1 – 105 ÷ 350)
= 210 ÷ (1 – 0.3)
= 210 ÷ 0.7
= 300
このレストランの損益分岐点売上高は300万円となり、月に350万円の売上がある今の状態は“黒字”ということになります。
このように、自店の売上高・変動費・固定費の3つの数字を把握していれば、損益分岐点売上高を確認することができます。
損益分岐点をエクセルで管理する方法
損益分岐点はエクセルで管理することができます。また、インターネット上には無料で公開されているテンプレートもあるため、エクセルに不慣れな人はそれらを活用してもよいでしょう。

上図は、エクセルテンプレートの一例になります。家賃や人件費などの固定費は据え置きにして、料理原材料等の変動費を入力することで損益分岐点売上を正確に把握することができます。
「売上が◯◯円の場合、原価がこれ以上かかると赤字になる」といった、おおよその経営シミュレーションができ、健全経営を続けることが容易になります。
飲食店における損益分岐点比率
損益分岐点比率とは、売上高と損益分岐点の比率のことで、以下の計算式で算出することができます。
損益分岐点比率 = 損益分岐点 ÷ 売上高 × 100
ここでのポイントは、損益分岐点と比較して実際の売上高がどれくらい上回っているかになります。比率が低いほど赤字への耐性があり収益性が高いといえます。一般企業では損益分岐点比率は80~90%程度で、90%を超えると経営の見直しが必要とされていますが、飲食店では90%を切る企業はほとんどありません。
売上を伸ばすことで損益分岐点比率を下げることができますが、飲食店においては同時に変動費も増加してしまいます。そのため、飲食店においては固定費をなるべく低くすることが大切になります。
飲食店の損益分岐点を下げる方法
飲食店の損益分岐点を下げる場合、次の方法が考えられます。
- 固定費の削減
- 変動費の削減
- 売上を上げる
それぞれの詳しい内容を解説します。
固定費の削減
飲食店の固定費削減は、損益分岐点を下げる効果的な方法です。特に家賃は固定費の中で大きな割合を占めるため、大家との値下げ交渉は重要な取り組みの1つです。長期入居を前提とした場合、安定的なテナントとしての価値を示すことで、オーナー側も前向きな検討をしやすくなるでしょう。
また、通信費や電気代などのコストも、契約プランの見直しにより削減が可能です。例えば、電力会社の切り替えや、インターネット回線の見直しなどが考えられます。 固定費は売上の増減に関わらず発生し続ける費用であるため、削減は直接的な利益向上につながります。特に売上が不安定な飲食業界では、固定費を可能な限り抑制することで、経営の安定性を高められることがメリットです。
変動費の削減
飲食店の変動費削減は、即効性のある経営改善策の1つです。特に原材料費と人件費は、工夫次第で迅速な効果が期待できます。
原材料費の削減では、仕入先の見直しや新規開拓が効果的です。複数の業者から見積もりを取り、価格交渉を行うことで、品質を維持しながらコストを抑えられます。また、メニュー開発を通じて、より原価率の低い商品構成への変更も効果がみられるでしょう。
人件費はシフトの最適化が重要ですが、過度な削減は避けるべきです。従業員の勤務日数を急激に減らすことは、スタッフの離職やモチベーション低下を招きかねません。また、必要最低限の人員を確保できないと、サービスの質が低下し、顧客満足度に影響を与える可能性があります。 変動費削減は慎重に計画を立て、従業員との対話を重視しながら進めることが重要です。
売上を上げる
売上高の増加は、固定費や変動費を変えることなく損益分岐点比率を下げる有効な方法です。商品単価の見直し、セット販売による顧客単価の向上、または販売数量の増加などを通じて実現できるでしょう。
一方で、売上増加を達成するには、広告宣伝費の投入や、サービス提供のための追加人員確保など、新たな費用が発生する可能性があることを考慮しなければなりません。SNS広告を打つことで集客は増えるかもしれませんが、広告費用が利益を圧迫する可能性もあります。 売上増加策を実施する際は、それに伴う費用増加を最小限に抑える工夫も必要です。既存の人員やリソースで対応可能な範囲での施策を優先的に検討し、費用対効果を慎重に見極めながら進めることで、効果的な損益分岐点の低下を実現できます。
利益率が低い飲食店の特徴
利益率が低い飲食店の特徴として、次の内容があげられます。
- メニューの価格設定に問題がある
- 人件費が利益を圧迫している
- 売上に対して固定費が高い
それぞれの特徴の詳細を解説します。
メニューの価格設定に問題がある
メニューの価格設定は、飲食店の利益率に直接的な影響を与える重要な要素です。適切な価格設定がなされていない場合、原価率が高くなり、利益を圧迫します。
競合店との価格競争に巻き込まれ、必要以上に安価な価格設定をしてしまうケースがあるでしょう。近隣店舗の価格に合わせるあまり、原材料費を十分にカバーできない価格で提供せざるを得なくなり、結果として利益率が低下しかねません。
また、メニュー構成のバランスも重要な要素です。利益率の高い商品と低い商品のバランスが適切でない場合、店舗全体の利益率は低下します。特に、売れ筋商品の利益率が低く、利益率の高い商品があまり売れない状況は、経営を圧迫する原因です。 定期的な価格の見直しと、メニュー構成の最適化が必要不可欠です。
人件費が利益を圧迫している
人件費が利益を圧迫している場合も、利益率低下の要因です。一方で、飲食店の人件費管理は、収益性と従業員満足度でバランスをとらなければなりません。
一般的に、売上高に対する適正な人件費比率は20〜30%とされていますが、この数値を単純に追求するだけでは、本質的な問題解決とはならないでしょう。
人件費の過度な削減は、短期的にはコスト削減効果が見られるものの、長期的には深刻な問題を引き起こしかねません。サービス品質の低下による顧客満足度の悪化や、従業員の離職率上昇による採用・教育コストの増加、さらには熟練スタッフの流出による店舗オペレーションの非効率化などが懸念点です。 人件費比率は単独で評価するのではなく、売上高や客単価、回転率、従業員一人当たりの生産性など、他の経営指標と合わせて総合的に分析することが重要です。
売上に対して固定費が高い
飲食店経営で、売上に対して固定費が高すぎる状況は、経営の不安定さを引き起こす大きな要因です。固定費は売上の増減に関わらず一定額が発生するため、過度に高い固定費は、特に売上が低調な時期に深刻な経営圧迫の要因となるでしょう。
固定費の中でも特に重要なのが家賃で、一般的に売上高の10%以内に抑えることが望ましいとされています。10%を大きく超える場合、売上が好調な時期でも十分な利益を確保できません。そのため、立地選定の段階から、想定売上に対する適切な家賃水準を慎重に検討する必要があります。 一方で、固定費の削減に成功すれば、その効果は継続的に得られる利点があります。家賃の見直しや光熱費の契約変更などを実現できれば、以降毎月の支出削減につながり、長期的な収益改善に大きく貢献するでしょう。
利益率が低い飲食店の特徴
利益率の低い飲食店の特徴としては以下が挙げられます。
- メニューの価格設定に問題がある(売上に対して高級な食材を使いすぎている)
- 仕事量に対して雇っている従業員が多く、人件費が利益を圧迫している
- テナント家賃が高額な場所に出店しており、売上に対して固定費が高い
要するに、すべて売上とコストのバランスが悪いことが原因となるので、損益分岐点の数値を常に念頭に置いて、損益分岐を下回ることがあればすぐに対策を取るようにしましょう。
飲食店の利益率を上げる方法

飲食店の利益率を上げる方法としては、以下のような施策が考えられます。
- 損益計算書(PL)を作成する
- コストを削減する
- FLコストを意識する
- 回転数を上げる
損益計算書(PL)を作成する
損益計算書(PL=Profit and Loss statement)とは、お店の売上高や家賃、水道光熱費などの固定費、食材などの原価(変動費)などをまとめたもので、1年間でどれくらい儲かったのか、損をしたのかといった経営成績を示す書類になります。
収益(売上)と費用(原価や家賃、人件費など)の内容を明記し、売上から原価を引いた売上総利益(粗利)や、売上から営業活動にかかる費用すべてを差し引いた営業利益など、段階的に利益を計算することができます。
経営にかかわる数字を一覧でまとめることで、売上高に対するコストのバランスも見えやすくなり、健全経営ができるようになります。
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コストを削減する
当然のことですが、運営にかかるコストを削減すればするほど利益率は向上します。
特に大きな削減効果があるのは固定費で、賃貸店舗の家賃などが該当します。売上にかかわらず毎月きっちり何十万と取られる家賃を少しでも抑えることができれば、効果は絶大です。とはいえ一度構えた店舗を引っ越すのは常連客離れにもつながり、デメリットも大きいため、まずは大家さんとの家賃交渉から始めてみましょう。
また、人件費の削減もコストカットの効果が見えやすいものの一つです。しかし、経営者としては従業員の生活の保証もしなければならないため、いきなり辞めさせるのは難しいもの。合意のもとで正社員からパートやアルバイトに移ってもらう、暇な時間帯はできるだけ最小限のスタッフで回すなど、小さなことからコストカットを目指すべきでしょう。
FLコストを意識する
FLコストとは、飲食店の売上高のうち食材原価(Food)と人件費(Labor)の割合を求めた数字のことです。FLコストは、飲食店経営で最も重視すべき指標の一つであり、いかに食材原価と人件費を安く抑えるかが経営のカギを握る、といっても過言ではありません。
FLコストとFL比率は、以下の計算式で求めることができます。
FLコスト = 食材原価 + 人件費
FL比率 = (食材原価 + 人件費) ÷ 売上高
一般の飲食店では、FL比率は50%台までに収めるのが良いとされています。たとえば、売上高200万円のカフェで、食材原価が50万円、人件費が70万円(正社員+アルバイトの給与)かかる場合、FLコストの計算は以下になります。
FLコスト = 食材原価50万円 + 人件費70万円 = 120万円
FL比率 = 120万円 ÷ 売上高200万円 = 60%
つまり、このカフェのFL比率は60%と平均よりやや多めといえます。アルバイトの人件費などカットしやすい所から手を付け、FL比率を50%台にまで落とすための経営努力が必要です。
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関連記事:飲食店のFLコストとは?FL利率や営業利益率、エクセルの管理方法も解説!
回転数を上げる

飲食店における収入を増やす方法として、もっともシンプルかつ確実に利益率のアップを狙える施策は来店客の回転率を上げることです。
飲食店の回転数の計算方法は、客単価と売上目標から算出します。たとえば、客単価1,000円のランチがメインで、席数20の喫茶店が月間500万円の売上を目標とする場合、次のフローで計算をしていきます。
1.500万円 ÷ 客単価1,000円 = 1か月に必要なランチ売上数は5,000食
↓
2.5,000杯 ÷ 30日間(店休日なし) = 1日に必要なランチ売上数は約167食
↓
3.167食を20席で割って、1日に必要な回転数は約8.4回
ランチタイムは、長くとも11時~15時くらいまでの約4時間が勝負どころ。8.4回転を4時間で実現するには、4時間休みなくひっきりなしにお客様が来たとして、1時間に2回転以上は必要になります。
このように考えると、ランチ営業のみで20席しかない喫茶店で、月500万円の売上目標はハードルが高すぎることがわかります。回転数を事前にしっかりと計算し、目標に届かない場合は席数を増やす、メニュー単価を上げるなどの改善が必要になってきます。
今より少しでも回転数を上げたい、という場合には、お客様一人当たりの着席から会計までのフローをできるだけ短くするため、以下の工夫が考えられます。
- メニュー数を制限する(悩まずに注文させる)
- シンプルなワンプレート料理を増やす
- Order Entry System(オーダーエントリーシステム)を導入して厨房とホールのやり取りを省く
- POSレジを導入して会計の手間を減らす など
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まとめ
飲食店経営にとって、損益分岐点に関わる数字を把握しておくことはとても大切です。脱サラした飲食店経営者には「数字が苦手」という方も少なくありませんが、一度損益分岐点をつかんでしまえば、後はそんなに複雑な計算は必要ありません。正確な損益計算書(PL)を作成し、経営上の問題をすぐに把握できるようにしてみてください。
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よくある質問
損益分岐点とは、文字通りお店の「損失」と「利益」の分かれ道となる数値のことです。売上高と、運営にかかるコストの額がちょうど等しくなる点のことを指しており、この時点の売上高のことを「損益分岐点売上高」と呼んでいます。
飲食店の損益分岐点は「損益分岐点 = 固定費 ÷ (1 – (変動費 ÷ 売上高))」で算出できます。損益分岐点を明らかにして、お店が儲かっているのかを確認するためには、まず毎月の正確な変動費と固定費をはじき出す必要があります。
飲食店の損益分岐点比率は、一般的に業態や規模によって異なりますが、平均的には80〜90%程度が目安です。
ただし、業態によって大きく異なり、居酒屋やバーなどのアルコール中心の店舗は比較的低く、一方でランチ中心の定食屋やカフェはやや高めになる傾向があります。比率が高いほど経営が不安定になりやすいため、固定費や変動費の削減、売上向上などの施策を通じて、できるだけ低い水準を目指すことが大切です。
詳しくは「飲食店における損益分岐点比率」を参考にしてみてください。
飲食店の粗利率は、業態によって異なりますが、一般的に65〜75%が目安です。業態別では、居酒屋やバーなどのアルコール提供店は70〜80%と高めで、ファストフードや定食屋は60〜70%、高級料理店は65〜75%程度が一般的です。
アルコール類は原価率が低いため、提供比率が高い店舗ほど粗利率は高くなる傾向にあります。ただし、これはあくまで目安であり、立地や客層、提供する料理のジャンルによっても適正な粗利率は変動します。