確定申告を行うことで源泉徴収税の戻りとして還付金を受け取れるケースがあります。本記事では、源泉徴収とはなにか、また、源泉徴収による還付金を受け取るための仕組みについて説明します。
源泉徴収とは
源泉徴収に関して、まずは仕組みを理解することが必要です。次の観点で源泉徴収の概要を解説します。
- 源泉徴収の仕組み
- 源泉徴収の対象
- 源泉徴収の必要がない対象
- 源泉徴収と年末調整の関係
- 源泉徴収票をもらえるタイミング
- 源泉徴収の対象となる時期
それぞれのポイントをみていきましょう。
源泉徴収の仕組み
源泉徴収とは、給与や報酬、利子・配当などを支払う側が、支払いの際に所得税額を計算して、税金額を支払金額から差し引くことをいいます。支払い側は、このとき差し引いた所得税を国に納付します。
毎月給与を受け取る企業の社員だけでなく、法人成りした個人事業主が自分に給与を支払う際や、企業が個人事業主に仕事を発注した際にも源泉徴収が行われています。
源泉徴収の対象
個人事業主の報酬が源泉徴収されるケースは次の通りです。
- 原稿料や講演料など
- 弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
- 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
- プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
- 映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビジョン放送等の出演等の報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
- ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
- プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
- 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金
参照元:国税庁「No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」
このように、源泉徴収はさまざまな業種の個人事業主に対して行われています。
源泉徴収の必要がない対象
まず、1か月の給与が88,000円未満の場合、源泉徴収の対象となりません。国税庁が公表している源泉徴収税額表に基づくと、88,000円未満の給与に対しては源泉徴収税額が0円に設定されているためです。ただし、給与所得者は「扶養控除等(異動)申告書」を提出する必要があります。
さらに、支払先が法人である場合も源泉徴収は必要ありません。源泉徴収が適用されるのは個人の給与所得に限られ、法人には法人税が課せられます。そのため、法人への支払いに対しては源泉徴収が発生しないことに注意しましょう。
源泉徴収と年末調整の関係
会社員の場合、年末調整によって、年間の給与所得に基づいて最終的な税額が確定します。源泉徴収されていた金額と、年末調整で算出された最終税額との差分が調整され、多く支払っていた分が返ってくるケースもあるでしょう。
年末調整では、配偶者控除や生命保険控除、住宅ローンの残高に基づく控除など、さまざまな控除が適用されます。会社員は、必要な書類を会社に提出することで、各種控除の適用が可能です。
一方、個人事業主の場合、年末調整は適用されません。そのため、自身で確定申告を行い、源泉徴収された税額と最終的な税額との調整を行う必要があります。
源泉徴収票をもらえるタイミング
一般的に、源泉徴収票は年末調整後に発行されます。会社は、毎年12月頃に年末調整を行い、その結果を基に給与所得者に源泉徴収票を配布しなければなりません。また、退職時にも源泉徴収票が発行されます。退職した年の収入や源泉徴収された税金が記載されているため、税務処理に必要です。
もし源泉徴収票を紛失してしまった場合は、発行元の会社に再発行を依頼できます。会社は、過去の給与明細や会計データに基づいて、再度源泉徴収票を作成可能です。万が一、発行元の会社が倒産してしまった場合には、所轄の税務署に相談してみましょう。
税務署は、必要な手続きを案内してくれるため、適切な対応が期待できます。源泉徴収票が交付されない場合、源泉徴収票不交付の届出書を提出することで、税務署に対応してもらえます。
源泉徴収の対象となる時期
1月1日から12月31日までの1年間にわたって期間中に支払われる給与や報酬に対して、所得税が源泉徴収されます。給与所得者の場合、給与の支払いがある月に毎月の給与から自動的に所得税が引かれる仕組みです。
重要な注意点として、源泉徴収の対象となるのは、対象期間中に働いた分の給与ではなく、実際に受け取った給与に対して行われる点があります。例えば、12月に働いた分の給与が翌年1月に支払われた場合、この給与に対する源泉徴収は翌年の対象です。
そのため、給与支払者は、年末調整の際に、実際に支払った給与額を基にして税額を計算することになります。年間を通じての総受取額や源泉徴収された金額を確認し、正確な税務処理を行うことが重要です。
源泉徴収は発行する側になる可能性もある
源泉徴収は、受け取るだけではなく発行する側になることに注意しましょう。どのような場合に、受け取る側ではなく発行する側となるのかを解説します。
源泉徴収を受ける側
源泉徴収は、報酬を受け取る個人事業主や、企業から給与を受け取る従業員に適用されます。この他にも、公的年金や株式の配当金を受け取る場合にも源泉徴収が適用され、このような収入も所得税が引かれる対象です。
個人事業主として源泉徴収を受けた場合、確定申告時に源泉徴収税額を申告する必要があります。これは、年間の収入や経費をもとに最終的な税額を算出するためで、源泉徴収税額が過剰であった場合は還付を受けられるでしょう。
報酬を受け取る際の請求書にあらかじめ源泉徴収税額を記載しておくと、経費管理がしやすくなります。源泉徴収税額を記載する義務はありませんが、記載することで取引先の事務手続きも簡素化され、明確な記録として残るメリットがあるでしょう。
源泉徴収を発行する側
源泉徴収票は、企業が1年の間に給与等を支払った従業員全員に交付します。
発行した源泉徴収票を紛失した場合、受取人から再発行を求められた場合、事業者は再発行に応じなければなりません。再発行に際しては、過去の給与明細や会計記録を参照し、正確な情報をもとに新たな源泉徴収票を作成します。
また、従業員が退職する際には、その年の給与や報酬に基づいて源泉徴収票の発行が必要です。退職後も、退職した年の収入に対して税務処理が必要となるため、退職時に源泉徴収票を手渡すことで、従業員が次の確定申告をスムーズに行えるでしょう。
個人事業主が途中で法人化した場合、年の途中より自分の会社から給与を受け取るようになります。自分の会社から自分に支払う給与であっても、源泉徴収票の発行が必要です。この場合、個人事業主のときの所得は事業所得に、法人成りした後に受け取る給与は給与所得として区分します。
また、年の途中で勤めていた会社を退職して起業した場合も、自分の会社から自分に対して支払った給与に関する源泉徴収票を発行します。
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源泉徴収票を用いた確定申告の書き方
個人事業主が年の途中で法人成りをしたとき、個人事業主として所得があった期間は個人事業主として確定申告を行い、法人設立から法人の事業年度終了までの期間は法人として事業年度終了から2か月以内に決算・申告を行います。
確定申告は1年分の収入等を税務署に申告するものなので、法人成りまでの期間は事業所得、法人成りした後は給与所得として申告書に記入します。
出典:国税庁/確定申告書等の様式・手引き等(令和5年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告分)
収入金額・所得金額に給与収入・所得を記入
個人事業主用の申告書である「申告書B」の「収入金額等」の「カ 給与」の欄に、源泉徴収票の「支払金額」を写します。「所得金額」の「⑥ 給与」の欄には、源泉徴収票に記載されている「給与所得控除後の金額」を記入します。
控除欄に社会保険料控除を記入
法人化すると、国民健康保険・国民年金ではなく社会保険に加入します。給与から差し引いて支払った社会保険料の額を記入しましょう。「所得から差し引かれる金額」の⑩の欄に、社会保険料控除の額を記入します。
税金の計算欄に源泉徴収税額を記入
「税金の計算」の「㊹ 源泉徴収税額」の欄に、源泉徴収された税額を記入します。給与以外にも源泉徴収された報酬等があったときは、報酬を支払った側から送られてくる支払調書で源泉徴収税を確認し、それらの額の和を記入しましょう。
この手順で確定申告書に源泉徴収票を書き写し、確定申告を行うことで所得税が還付される可能性があります。
確定申告後に戻ってくる還付金の計算方法
給与から天引きして支払っていた所得税や、源泉徴収の対象となる報酬を受け取る際に差し引いていた源泉徴収税がある個人事業主は、確定申告後に還付金を受け取れる可能性があります。
この還付金は、事前に支払っていた税の総額が、実際の所得から算出される所得税の額を上回っていたときに発生するもので、事前に支払っていた税の総額が実際の所得から算出される所得税の額を下回る場合には不足分を所得税として支払わなければなりません。
還付金は、「源泉徴収税額-所得税額」で算出できます。
たとえば、個人事業の報酬から差し引かれていた源泉徴収税が年間で60万円、給与所得から所得税として差し引かれていた額が2万円あったとします。確定申告の際、収入から各種控除を行った結果、支払う所得税は20万になりました。
この場合、「源泉所得税額(60万円+2万円)-所得税20万円=還付金額42万円」となります。
源泉徴収票を用いた確定申告でよくある質問
対象となる人に違いがあります。源泉徴収は給与を受け取っている人が対象で、給与支払い側が実施しなければなりません。確定申告は、個人事業主や副業で収入を得ている人が対象で、源泉徴収票を受け取り、源泉徴収税額の申告が必要です。
確定申告をする際に、源泉徴収票の添付は不要です。ただし、確定申告の各項目を記入する際には、源泉徴収票に記載されている数値を参考にしながら記入する必要があります。
源泉徴収された税金は、確定申告の際に還付金として戻ってくることがあります。還付金が戻ってくるのは、源泉徴収された税額が、実際に算出された税額を上回っている場合です。
出典:国税庁/平成31年4月1日以後の申告書の提出の際、源泉徴収票等の添付が不要となりました
まとめ
源泉徴収の対象となっている個人事業主や、個人事業を途中で法人にした方は、還付金を受け取れる可能性があります。通年個人事業主として事業を営んでいる方も、年の途中に個人事業主から法人成りした場合も、個人事業の部分に対する確定申告が必要です。
事業の内容等によっては、多額の還付金を受け取れることもあります。確定申告時には、源泉徴収税額の欄に忘れず記入しましょう。