雇用している従業員が退職する場合、さまざまな手続きが必要になります。中には期限が決まっているものもあり、対応が遅れると退職した従業員に迷惑がかかる場合がありますので、退職に伴う手続きは迅速かつ適切に行わなければなりません。
本記事では、従業員の退職時に行う手続きや対応について、詳しく解説します。
従業員の退職手続き一覧
従業員の退職時に行う必要がある手続きは、以下のようなものが挙げられます。
- 社会保険資格喪失手続き
- 雇用保険資格喪失手続き
- 退職時の社会保険料控除
- 住民税の手続き
- 源泉徴収票発行
- 退職金からの控除計算
社会保険資格喪失手続き
従業員は退職すると同時に、健康保険と厚生年金保険の社会保険資格を失うことになります。雇用者側は、従業員の社会保険資格喪失手続きを行わなくてはなりません。手続きに必要な書類は、下記のとおりです。
- 健康保険厚生年金保険被保険者資格喪失手続届
- 退職者本人の健康保険証
- 被扶養者がいる場合には、被扶養者の健康保険証
- 健康保険証を添付できない場合は、健康保険被保険者証回収不能届・滅失届
まず、退職者から健康保険証を回収する作業から始めます。退職者に被扶養者(配偶者や子どもなど)がいる場合には、被扶養者の健康保険証も同時に回収します。何か理由があって回収できない時は、「健康保険被保険者証回収不能届・滅失届」を年金事務所に提出する必要があります。
次に、厚生年金保険の被保険者期間を確認します。退職日によって被保険者期間が変わるので、注意しましょう。厚生年金保険の被保険者期間は1か月単位となっており、「退職日の翌日に属する月の前月まで」と定められています。たとえば、退職日が8月31日の場合には、退職日の翌日は9月1日となりますので、9月の前月である8月までが被保険者期間となります。会社と退職者は、8月分までの厚生年金保険料を支払います。
続いて健康保険の被保険者期間を確認しますが、こちらも退職日によって被保険者期間が変わります。健康保険は退職日の翌日に資格を失うと定められているため、たとえば、退職日が8月31日の場合には、翌日の9月1日に資格を失うこととなります。会社と退職者は、8月分までの厚生年金保険料を支払います。
関連記事
社会保険の手続き方法と必要書類~事業者はいつ何をすればいい?申請の流れを把握
雇用保険資格喪失手続き
雇用保険の資格喪失手続きは、従業員が退職した日の翌日から10日以内に、最寄りのハローワークに提出します。雇用保険資格喪失手続きがされていないと、退職者の次の勤務先で雇用保険に加入することができず、退職者にも勤務先にも迷惑がかかることになりますので、遅滞なく行わなければなりません。
雇用保険の資格喪失手続きに必要な書類は、下記のとおりです。
- 雇用保険被保険者資格喪失届
- 雇用保険被保険者離職証明書
- 賃金台帳、出勤簿、タイムカード
- 労働者名簿
- 退職届
退職者の退職理由により、雇用保険の失業給付をもらえる期間や金額が変わりますので、退職理由は必ず明らかにしておきましょう。自己都合退職の場合には、「3か月間失業保険を受け取れない」とする給付制限が設けられています。しかし、会社都合退職(解雇)の場合は、手続きをしてから最短で7日後から支給されます。
次に、「雇用保険被保険者資格喪失届」「雇用保険被保険者離職証明書」を作成します。これらの書類には、退職者の氏名や住所、退職理由などを記載する必要があります。賃金台帳やタイムカードなど他の必要書類が揃ったら、ハローワークで手続きします。
ハローワークで雇用保険資格喪失手続きをすると、「離職票」と呼ばれる書類が発行されます。離職票には「1と2」の2種類があり、発行されたらすぐに退職者に渡さなければなりません。
退職時の社会保険料控除
従業員が負担する社会保険料は、被保険者資格を取得した月から、退職日の翌日の属する月の前月まで発生し、事業主は、毎月の給与から前月分保険料を控除することができます。
たとえば、従業員が8月15日で退職した場合は、前月となる7月分の保険料を8月の給与から控除し、8月31日に退職した場合は、退職月の前月(7月)と退職月(8月)の2か月分の保険料を、8月の給与から控除することができます。
住民税の手続き
住民税は、毎月の給与から天引きされる形で払われます。しかし、会社を退職すると、給与天引きはできなくなりますので、退職時に住民税の残額支払いのための手続きを行わなくてはなりません。
住民税の残りを支払うには、普通徴収に切り替えて自分で市区町村に納めるか、最後の給与や退職金から一括で納めるかのいずれかがあり、退職者自身が選択できます。
普通徴収に切替える場合は、退職する月は通常通り住民税を天引きして、退職の翌月10日までに納税先の市区町村に「給与所得者異動届」を提出します。ただし、普通徴収への切り替えができるのは6月~12月に退職した人だけであり、1月~5月までに退職した場合は、原則として一括徴収をしなければなりません。
会社側は最後の給与で残りの住民税を一括徴収し、「給与所得者異動届」を各市区町村に提出します。また、退職者が1か月以内に次の会社に入社する場合には、転職先の会社で特別徴収を引き継ぐこともできます。
源泉徴収票発行
年末(12月31日)の年が変わるタイミングで退職する以外の人は、その年1年間の給与の合計が確定していないうちに辞めることになりますので、年末調整を行えません。
そのような退職者の年末調整は、次の勤務先で行うことになります。もし次の仕事に就かない場合は、翌年3月に従業員本人が確定申告をする必要があります。
そのため、退職者には、退職後1か月以内に「給与所得の源泉徴収票」を交付する必要があります。なお、源泉徴収票は退職者だけでなく本人の住所地の市区町村に提出します。市区町村への提出は翌年1月末までです。
関連記事
源泉徴収とは?~店舗経営者や個人事業主が知っておくべき税率と計算方法
退職金からの控除計算
退職金も「退職所得」として課税対象となりますので、支給する際には所得税と住民税を控除することになります。
ただし、退職金を受け取ると一時的にかなり高額の収入を得ることになりますので、給与などと同じ所得として扱うと、所得税率が高くなってしまいます。そこで、給与とは分けて税金を計算する「分離課税方式」で計算することになっています。
退職する従業員に提出してもらうもの
退職する従業員に提出してもらう必要がある書類には、以下のようなものが挙げられます。
- 退職届
- 保険証
- 貸与品
退職届
退職届は、「退職願」と混同されることもよくありますが、両者は全く違う書類になります。
退職願は、会社(あるいは経営者)に対して退職を願い出るための書類であり、却下される可能性もあり得ます。一方退職届は、一方的に自分の退職を通告するための書類で、一度出してしまうと撤回はできません。
退職届を提出するタイミングは、民法では「退職する14日前までに意思表示をすればよい」とされていますが、現実としては1か月前まで提出することが通例です。
保険証
退職に当たって、健康保険証を提出しなければならないのは、前述したとおり会社が保険資格喪失手続きに使用するためです。雇用者側は従業員の退職日から5日以内に手続きを行わなくてはならないため、余裕をもって準備しましょう。
特に扶養家族がいる場合は家族全員分の保険証を提出する必要がありますので、スケジュールに注意してください。
貸与品
制服や社員証、通勤定期券、PCやスマートフォンなどの貸与品も、退職時にすべて返却する必要があります。
貸与品のリストをもとに、返却忘れがないように留意しましょう。抜け漏れがあると、退職者の自宅やプライベートの携帯電話に連絡しなければならないなど何かと面倒なため、確実に回収するようにしましょう。
退職日後に送る書類
退職後に、退職者へ送付する書類としては、以下のようなものが挙げられます。
- 離職票
- 源泉徴収票
- 健康保険被保険者資格喪失確認通知書
離職票
離職票は、退職者が次の仕事に就くまでの間の収入を確保するため、失業給付を受ける際にハローワークに提出する書類です。
これがないと失業給付の支給ができませんので、発行されたら速やかに退職者宛に送付する必要があります。
源泉徴収票
源泉徴収票は、退職から1か月以内に交付する必要があります。源泉徴収票は、退職者だけでなく本人が居住する住所地の市区町村にも提出しなければならず、市区町村への提出は退職年の翌年1月末までです。
源泉徴収票を受け取った退職者は、転職先の会社に提出して、その会社にて年末調整を行ってもらうことになります。新しい会社に勤めない場合(個人事業主や専業主婦になるなど)は、翌年3月に退職者本人が確定申告をする必要があります。
健康保険被保険者資格喪失確認通知書
「健康保険被保険者資格喪失確認通知書」とは、退職者が加盟していた健康組合から抜け、社会保険資格を失ったことを証明する書類です。
退職者が健康保険に入り続けることを希望し、退職後に国民健康保険へ切り替える時に必要となります。
退職時の手続きの流れ
退職時に雇用者側が行わなければならない手続きの流れを、以下にまとめました。
- 退職者が退職願/退職届を提出
- 健康保険任意継続希望について確認する
- 住民税徴収方法について確認する
- 貸与品(社員証、事務用品、名刺など)を返却してもらう
- 年金手帳を提出してもらう(会社が保管している場合は不要)
- 退職証明書を交付する
- 雇用保険の資格喪失手続き
- 社会保険の資格喪失手続き
- 退職者に離職票を交付する
- 退職者に源泉徴収票を交付する
- 給与所得者異動届を市区町村に提出
まとめ
従業員が退職する際に、雇用者側が行う手続きはさまざまありますが、ひとつ一つはそう複雑でもないため手順通りにやれば難しいものではありません。ただし、退職金が発生する場合は控除等の計算がかなり複雑ですので、税理士にお願いするのも一つの手です。退職時の手続きをスムーズに終え、円満退社を後押ししてください。