飲食店などの店舗を経営し、従業員に給与を支払っているのであれば、給与支払報告書を市区町村に提出する義務があります。しかし、給与支払報告書とは何か、どのように記入すれば良いのかを把握していない経営者も少なくありません。
本記事では、給与支払報告書の書き方や提出方法、提出期限など知っておくべき情報を紹介します。
給与支払報告書とは
給与支払報告書とは、前年1月1日から12月31日までの1年間に、事業者が従業員にどのくらい給与を支払ったのかを確認するための書類です。
給与支払報告書に関して、次の内容を解説します。
- 給与をどの程度支払ったのか確認する書類
- すべての従業員の分提出義務がある
- 自治体のホームページから入手できる
それぞれのポイントをみていきましょう。
出典:総務省/地方税分野の主な申告手続等における様式【税目別】
給与をどの程度支払ったのか確認する書類
給与支払報告書をもとに、都道府県民税や市町村民税といった住民税の課税額が決まります。従業員に給与支払いを行っている事業主は、翌年1月1日時点で従業員が居住している市町村に給与支払報告書を提出しなければなりません。
給与支払報告書は、個人別明細書と総括表の2つで構成されています。
- 個人別明細書:従業員一人ひとりの年間の給与金額などを報告するもの
- 総括表:個人別明細表をまとめる表紙のような役割を果たす
すべての従業員の分提出義務がある
法人・個人を問わず、給与を支払う事業主は前年中に給与を支払ったすべての人について、給与支払報告書を提出する義務があります。この「すべての人」には正社員だけでなく、パートやアルバイト、役員などの雇用形態の人も対象です。
また、給与支払報告書は支払った金額に関係なく作成する必要があります。年末調整や確定申告をしたかどうかも関係ありません。基本的に、在職中の従業員の給与支払報告書は必ず提出するものだと認識しておきましょう。
自治体のホームページから入手できる
給与支払報告書の様式は、市区町村のホームページ等からダウンロードするか、担当部署や税務署で配布しているものを使用します。該当年の様式かどうか必ず確認し、最新版を使いましょう。
なお、過去に給与支払報告書を提出したことがある事業所宛てに様式を送付している市区町村もあるため、送付されるかどうか、事前に確認しておくと準備の手間が省けます。
給与支払報告書の書き方
給与支払報告書のうち、個人別明細書は源泉徴収票と項目が同じです。そのため、源泉徴収票をもとに個人別明細書を作成し、その後事業所全体の個人別明細書の情報をまとめた総括表を作成するとスムーズです。
給与支払報告書として提出する書類には、個人別明細書、総括表のほかに、「普通徴収切替理由書」があります。
普通徴収切替理由書は、特別徴収から普通徴収に切り替える必要がある対象者がいる場合に提出しなければなりません。特別徴収から普通徴収に変更しなければならない人の例には、退職者などが該当します。
個人別明細書の書き方として、次の項目を解説します。
- 給与支払いを受ける者
- 支払金額
- 給与所得控除後の金額
- 所得控除の額の合計額
- 源泉徴収額
- (源泉)控除対象配偶者の有無
- 配偶者(特別)控除の額
- 控除対象扶養親族の数
- 16歳未満扶養親族の数
- 障害者の数
- 非居住者である親族の数
- 社会保険料の金額、控除額
- 国民年金保険料等の金額、旧長期損害保険料の金額
- 扶養親族
- 配偶者の合計所得
- 支払者
それぞれの内容をみていきましょう。
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給与支払報告書の書き方~個人別明細書・総括表の記入方法を項目ごとに紹介
給与支払いを受ける者
従業員の住所や氏名、個人番号(マイナンバー)などを記入します。住所は1月1日現在のものを書きましょう。受給者番号や役職名などがない場合は空欄でかまいません。
給与を受ける全ての従業員に関してフリガナを記入することが必要です。役員である場合は、役職を記入し、役員でない場合は従事する職務の名称も忘れずに記載しましょう。従業員の所属や役割が明確に区別され、自治体が正確に課税対象者を把握するための資料となります。
支払金額
その年の給与支払総額を記入します。通常は前年1月1日から12月31日までの1年間に支払った給与支払い総額となります。
従業員へ実際に支払われた給与総額を記載し、未払分がある場合は内書きとして別に示すことが必要です。内書きする際は、未払金額を括弧で表示し、合計金額とは分けて記入します。
給与所得控除後の金額
源泉徴収票をもとに給与所得控除後の金額を記入します。支払金額を基に「令和5年分年末調整のしかた」に掲載されている「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」に当てはめて算出しなければなりません。
所得金額調整控除の適用がある場合は、調整控除額を差し引いた後の金額を記載します。年末調整をしない場合は空欄で提出してください。
所得控除の額の合計額
社会保険料控除や生命保険料控除、配偶者控除、扶養控除、基礎控除といった控除の合計額を記入します。年末調整をしない場合は空欄で提出してください。
配偶者控除と配偶者特別控除は、重複して適用を受けられないことに注意しましょう。
源泉徴収額
年末調整後に確定した源泉所得税及び復興特別所得税の合計額を記入します。年末調整をしない場合は、会社に在籍していた間に給与や賞与から天引きされた所得税の合計額を書きます。
作成時点で未払いの給与がある場合は、未徴収税額を内書きで記載することが必要です。
(源泉)控除対象配偶者の有無等年末調整を受けている場合で控除対象配偶者がいる場合は「〇」と記入します。また、配偶者控除を受けた配偶者が70歳以上であれば、老人欄にも「〇」を記入しなければなりません。
年末調整を行わない場合でも、源泉控除対象配偶者がいる場合は「〇」を記載します。なお、源泉控除対象配偶者とは、合計所得金額が95万円以下であり、かつ生計を一にする配偶者を指す用語です。
配偶者(特別)控除の額
配偶者(特別)控除の額は、年末調整を行った受給者のみが記入します。この控除額は「給与所得者の配偶者控除等申告書」に基づき、配偶者控除または配偶者特別控除として控除された金額の記載が必要です。
ただし、受給者本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合や配偶者の合計所得金額が48万円以下の場合、または133万円を超える場合は配偶者特別控除の適用は受けられません。
控除対象扶養親族の数
特定扶養親族、老人扶養親族、その他扶養親族の人数をそれぞれ該当する欄に記入します。さらに、自社が主たる給与の支払者である場合と、従たる給与の支払者である場合で記入すべき欄が異なるため、確認が必要です。
従業員が複数の支払者から給与を受け取っている場合には、従たる給与の支払者として記入することが求められるケースがあります。
16歳未満扶養親族の数
扶養親族のうち、16歳未満の扶養親族の人数を記入します。16歳未満の扶養親族については、扶養控除の適用はありません。
障害者の数
点線の右側と左側に異なる情報の記載が必要です。まず、「点線の右側」には、同一生計配偶者や扶養親族のうち、特別障害者に該当する方の人数を記入します。
一方、「点線の左側」には、その特別障害者のうち、納税者と同居を常としている方の人数を記載しなければなりません。
非居住者である親族の数
控除対象となる親族が非居住者である場合、その人数の記入が必要です。具体的には、源泉控除対象配偶者、控除対象配偶者、配偶者特別控除の対象となる配偶者、そして扶養控除の対象となる扶養親族に該当する非居住者の人数を記載します。
また、16歳未満の扶養親族のうち国内に住所がない方も含まれます。
社会保険料の金額、控除額
社会保険料の金額や生命保険料、地震保険料などの控除額、その内訳を記入します。
国民年金保険料等の金額、旧長期損害保険料の金額
社会保険料控除を受けた国民年金保険料等の金額などを記入します。また、地震保険料の控除額のうちに平成18年12月31日までに締結した長期損害保険契約に関しては、旧長期損害保険料として記入が必要です。
扶養親族
控除対象の配偶者や扶養親族、16歳未満の扶養親族の名前、個人番号(マイナンバー)を記入します。受給者に交付する源泉徴収票には、マイナンバーの記入は不要です。
配偶者の合計所得
配偶者が控除対象の場合、配偶者の合計所得を記入します。
支払者
従業員に給与を支払った会社の名前と住所、電話番号などの情報を記入します。マイナンバーまたは法人番号の記入も必要です。ただし、交付する源泉徴収票にはマイナンバーや法人番号の記入は必要ありません。
給与支払報告書の総括表の書き方
総括表に記載する内容のうち、細かい項目は市区町村によって異なることがあります。提出先の市区町村が提示している記入例を必ず確認してください。次の項目に関して港区を例に解説します。
- 給与の支払期間
- 提出区分
- 法人番号
- 給与支払者
- 事業種目
- 提出先市区町村数
- 受給者総人員
- 報告人員
- 所轄税務署
- 給与の支払の方法およびその期日
- 特別徴収税額の払い込みを希望する金融機関
- 給与支払者番号
それぞれの項目を詳しくみていきましょう。
出典:港区/給与支払報告書(総括表・個人別明細書・普通徴収切替理由書)
給与の支払期間
前年の1月分から12月分です。
法人番号
事業所の法人番号、または給与支払者のマイナンバーを記入します。
給与支払者
事業主の住所、名称、代表者名を記入します。
事業種目
食品販売業など、事業の内容を記入します。
受給者総人員
本年1月1日現在の在職者数を記入します。
報告人員
給与支払報告書を提出する人員を、在職者と退職者等にわけて記入します。
所轄税務署
所得税の源泉徴収を行っている事業所を管轄する税務署の名称を記入します。
給与の支払の方法およびその期日
月給・日給・時給といった給与の支払い方法と、支払日を記入します。
納入書の送付納付書を使って支払う場合には「必要」に〇を付け、インターネットバンキングを利用し納入書を使わない場合は「不要」に〇を付けます。
納入書を送付することで、振込金額と実際の納入額が一致しているかを確認する役割も果たし、誤差や記載ミスの防止に役立てられるでしょう。
給与支払報告書の提出方法
給与支払報告書は、以下のいずれかの方法で提出します。
- 窓口へ提出
- 郵送
- 光ディスク
- 電子申告(eLTAX)
窓口へ提出
基本的な提出方法として浸透しているのが、市区町村の担当窓口へ行き書類一式を提出することです。提出先の部署名は市区町村によって異なりますが、税関係を担当している部署となります。
受付時間は市区町村の開庁時間で、9時から17時30分としているところが多いです。
郵送
給与支払報告書の提出は郵送でも行えます。提出先の市区町村の担当部署あてに郵送しましょう。郵送の際は、封筒の表面に「給与支払報告書在中」と書くと担当職員のもとへスムーズに届きます。
マイナンバーなどの個人情報も記載しているため、万が一の紛失等に備えて特定記録や簡易書留など追跡可能な方法で送るのがおすすめです。
光ディスク
給与支払報告書は、光ディスク等での提出も可能です。光ディスク等に含まれるのは、光ディスク(CD、DVD)および磁気ディスク(MO、FD)です。必要なデータを入れて必要事項を記入したラベルを貼り、市区町村の担当窓口へ持参または郵送します。
なお、光ディスク等で提出するときは、事前に承認を受ける必要がありましたが、令和5年4月1日以降は承認が不要になりました。
令和3年1月1日以降、前々年の調書の枚数が100枚以上の調書は、紙媒体以外の提出が義務付けられているため注意が必要です。
電子申告(eLTAX)
eLTAXを利用した電子申告によって、給与支払報告書を提出できます。電子申告をする場合は、無料で利用可能なeLTAX対応ソフトウェアであるPCdeskを使用します。事前に利用届出を行って利用者IDを取得し、PCdeskをインストールしておきましょう。
また、基準年(前々年)に税務署へ提出した給与所得の源泉徴収票の枚数が100枚以上の給与支払者は、eLTAXまたは光ディスク等による給与支払報告書の提出が義務とされています。例えば、2019年に提出した源泉徴収票の枚数が100枚以上だった場合、2021年提出分からeLTAXまたは光ディスクによって給与支払報告書を提出しなければなりません。
2021(令和3)年1月提出分から、前々年の源泉徴収票の枚数基準が以前の1,000枚以上から100枚以上に引き下げられたため、義務化の対象となっているかどうかを確認しておきましょう。
eLTAXを活用することで支払報告書が各市区町村に、源泉徴収票がe-Taxで所轄税務署にそれぞれ提出されるため事務処理の効率化が可能です。
出典:eLTAX/給与支払報告書、給与所得者異動届出書を提出するには
給与支払報告書の注意点
給与支払報告書の注意点として、次の内容を解説します。
- 期限までに提出する
- 提出不要のケースがある
- 退職者の給与支払報告書も提出が必要
それぞれの注意点を詳しくみていきましょう。
期限までに提出する
給与支払報告書の提出期限は1月31日です。期限までに、各従業員が1月1日に住んでいる市区町村へ提出しなければなりません。
2024(令和6)年の給与支払い報告書を提出するときは、2025(令和7)年1月31日までに、2025(令和7)年1月1日にそれぞれの従業員が住んでいる市区町村へ提出しましょう。
ちなみに記載内容や提出先を間違えて提出してしまったときは、給与支払報告書誤報届出書を提出すれば、書類を取り消せます。なお、市区町村によっては「訂正分」「追加分」と朱書きしたうえで再提出する形を取っていることもあります。
提出不要のケースがある
給与の支払金額が30万円以下の退職者であれば、特例によって給与支払報告書の提出が免除になることもあります。ただし、これはあくまで特例であり、市区町村によっては通常どおり提出が必要になることもあるため、従業員が居住している市区町村に確認しましょう。
退職者の給与支払報告書も提出が必要
事業主は、1年の途中で退職してしまった従業員の分も給与支払報告書を作成、提出しなければなりません。退職した従業員の給与支払報告書の作成は、退職時に住んでいた住所の市区町村の様式に合わせましょう。
なお注意点として、退職者の住民税の徴収方法が特別徴収から普通徴収に切り替わることがあります。
給与の支払いを受けている給与所得者は、地方税法によって原則特別徴収で住民税を納めることと決められています。特別徴収とは、給料から天引きされる形で住民税を納付することです。しかし、退職して給与所得者ではなくなった場合、決められた住民税を自分で納めなくてはなりません。これを普通徴収といいます。普通徴収が認められるのは、他の事業所で特別徴収をしている場合や、従業員が退職する場合など、特定の基準を満たしているときだけです。
特別徴収から普通徴収に切り替える場合は、給与支払報告書の総括表で報告しなければなりません。総括表には特別徴収から普通徴収に切り替える人数を記入する欄があるので、退職者はそちらに含めましょう。
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給与支払報告書を提出しないとどうなる?
給与支払報告書は、地方税法第317条の6「給与支払報告書等の提出義務」によって、提出が義務付けられています。なお、提出を怠った場合には、事業主や事務担当者に1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
また、給与支払報告書は、従業員それぞれの住民税を計算するために使われる書類のため、提出が遅れることで、従業員が住民税の請求を受ける時期が遅れてしまうこともあります。
住民税の賦課作業が行われる6月に間に合わなかった場合は、1年分を12カ月に分けて納付する住民税をより少ない月数で分けることになり、従業員の1カ月あたりの負担が増えてしまいます。
従業員に迷惑をかけることになるので、定められた期限までに必ず提出してください。
出典:e-GOV法令検索
給与支払報告書のよくある質問
給与支払報告書の提出は義務なので、期限を過ぎてしまっても速やかに提出しなければなりません。遅れれば遅れるほど従業員の負担が増す可能性が高まるので、期限後もなるべく早く提出しましょう。
源泉徴収票をもとにした個人別明細書の作成と、事業所全体の個人別明細書の情報をまとめた総括表の作成が必要です。それぞれの項目が定められており、既定のフォーマットに沿って記入しなければなりません。
給与支払報告書は、給与の支払い側が書類を用意し市町村へ提出しなければなりません。
退職した従業員が、受け取った給与が30万円以下の場合は提出を省略できます。一方で、自治体によっては提出を求められることもあるため、事前に確認したほうがよいでしょう。
休職中など、さまざまな条件で支払いが0円の場合でも、支払い金額0円で提出が必要です。
まとめ
給与支払報告書は、従業員に給与を支払っている事業者は必ず提出しなければならない書類です。飲食店のパート・アルバイト従業員も対象となるため、それぞれの市区町村へ必ず書類を提出しましょう。
給与支払報告書の提出が遅れると従業員に負担がかかってしまう可能性もあります。従業員との信頼関係を維持するためにも、期限までに確実に提出してください。
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