領収書の宛名は、会社名や個人名の正しい書き方を知らないと、発行する側も受け取る側も困ってしまいます。経理初心者にとって、宛名の記載方法は意外と分かりにくいもの。個人事業主の場合、会社名と個人名を併記する場合など、ケースによってルールが異なるのです。
本記事では、領収書の 会社名・個人名・個人事業主など宛名の書き方について、会社名や個人名のパターン別に具体例を交えて詳しく解説し、業種別の注意点や便利なテクニックもご紹介します。
領収書の役割と法的効力
領収書は、お金の受け渡しがあったことを証明する書類で、取引の内容を明確にするために使われます。主に、支払いを受けた側が支払った側に発行します。
領収書には法的な効力があり、適切に発行・保管することが義務付けられています。取引の証拠としても重要な役割を果たすので、いい加減な扱いはしてはいけません。
領収書の宛名の意味とそれぞれの正しい書き方
領収書の宛名は、支払いをした人や会社の名前を指します。正式な名称で正しく記載することが重要です。宛名の間違いは、経理処理のミスにつながるだけでなく、税務署に提出する際の信頼性にも関わります。
次のケースでそれぞれの正しい書き方を解説します。
- 会社名の正しい書き方
- 個人名の正しい書き方
- 個人事業主の場合の宛名の書き方
- 会社名と個人名を併記する場合の宛名の書き方
事務処理上のミスを防ぐためにも参考にしてみてください。
会社名の正しい書き方
会社名を宛名に書く場合は、正式な社名を略さずに記載しましょう。「株式会社」や「有限会社」などの法人格も省略せずに書くのがルールです。
- 良い例:「株式会社ABCソリューションズ御中」「XYZ工業株式会社様」
- 悪い例:「ABC御中」「XYZ工業様」
また、部署名や担当者名を併記する場合は、会社名の下に正しく記載します。
- 良い例:「株式会社ABC 経理部 山田太郎様」
- 悪い例:「山田太郎様 株式会社ABC 経理部」
個人名の正しい書き方
個人名を宛名に書く場合は、フルネームで書くのがルールです。姓と名の間にスペースを入れ、「様」や「殿」などの敬称を付けましょう。
- 良い例:「山田太郎様」「鈴木花子様」
- 悪い例:「山田様」「鈴木様」
また、「様」と「殿」の使い分けにも注意が必要です。一般的に、「様」は男女共通の敬称ですが、「殿」は男性に対してのみ使います。
個人事業主の場合の宛名の書き方
個人事業主の場合、宛名は「個人名(個人事業主)」の形式で記載します。
- 良い例:「山田太郎(個人事業主)様」「鈴木花子(個人事業主)様」
- 悪い例:「山田太郎様」「鈴木花子様」
個人事業主であることを明記しないと、税務署への申告の際に、経費として認められない可能性があります。
会社名と個人名を併記する場合の宛名の書き方
会社名と個人名を併記する場合は、会社名を先に書き、次に部署名、最後に個人名を書きます。
- 良い例:「株式会社ABC 営業部 山田太郎様」「XYZ工業株式会社 経理部 鈴木花子様」
- 悪い例:「山田太郎 株式会社ABC 営業部様」「鈴木花子様 XYZ工業株式会社 経理部」
この順番を守ることで、領収書が確実に適切な部署や担当者に届きます。
領収書の項目ごとの正しい書き方
領収書には次の項目を記載します。
- 日付
- 金額
- 但し書き
- 金額の内訳
- 発行者
それぞれの項目の正しい書き方を解説します。
日付
領収書の日付は、原則として実際に代金を受け取った日付を記入しなければなりません。これは現金取引の場合は現金を受け取った日、振込の場合は入金を確認した日です。
日付の表記方法については、西暦(2024年2月3日)でも和暦(令和6年2月3日)でも問題ありませんが、どちらを選択する場合でも年の部分を省略することは認められていません。
特に年の表記については、後々のトラブルや誤解を防ぐため、必ず完全な形で記載する必要があります。経理処理や税務申告の際の重要な証拠となるためです。また、取引先との契約や慣習により特定の表記方法が定められている場合は、その形式に従うことが望ましいでしょう。
金額
領収書の金額欄は、改ざん防止の観点から特に慎重な記入が必要です。金額の記載には、先頭に「¥」または「金」を付けることが基本です。例えば、10万円の場合は「¥100,000-」または「金100,000-」と表記します。
読みやすさと正確性を確保するため、3桁ごとにカンマ(,)を入れるのも有効です。例えば、「¥1,234,567-」のように記載します。また、金額の末尾には改ざん防止の意味を込めて、ハイフン(-)、米印(※)、または「也」のいずれかを付けます。 特に手書きの領収書の場合、金額の前後に空白を開けないようにすることで、後から数字を追加されることを防げるでしょう。
但し書き
領収書の但し書きには、支払いの内容を具体的に記載することが重要です。「事務用品代として」「会議室使用料として」のように、語尾に「として」をつけて記入するのが一般的な書き方です。
「品代」という表現は一般的によく使われていますが、税務調査の際に取引内容が不明確として指摘される可能性があるため、避けることが推奨されます。複数の品目がある場合は、主要なものを記載し「○○他〇〇として」と表記しましょう。例えば、「コピー用紙他文具代として」のような書き方です。 軽減税率の対象となる商品(食料品など)が含まれる場合は、「弁当代(軽減税率対象)として」のように、その旨を明確に記載する必要があります。
金額の内訳
インボイス制度への対応が必要な領収書では、税率ごとの消費税額を明記しなければなりません。「10%対象:消費税○○円」「8%対象:消費税○○円」のように、税率別の消費税額を記載します。 複数の税率が適用される取引の場合は、税率ごとの対象額と消費税額を分けて記載し、最後に合計金額を示す形式が一般的です。インボイス対応の形式により、取引の透明性が確保され、正確な税務処理が可能です。
発行者
領収書の発行者欄には、取引の当事者を明確にするため、できるだけ詳細な情報を記載します。会社名だけでなく、支店名や店舗名まで記入することで、後々の確認が必要になった際にスムーズな対応が可能です。
印鑑は法律上必須ではありませんが、ビジネス慣習として押印するのが一般的です。法人の取引では、印鑑が押されていない領収書を経理処理の際に受け付けない社内ルールを設けている企業も多く存在するため、後々のトラブルを未然に防ぐ観点から、押印しておくことが推奨されます。
また、発行者の住所や電話番号も記載しておくと、問い合わせが必要になった際にスムーズな対応が可能です。インボイス発行事業者である場合は、必ず登録番号(T+数字13桁)も記載しましょう。
関連記事:インボイス制度対応のPOSレジとは?導入時に知っておきたいポイント
業種別の宛名の書き方の注意点

業種別の宛名の書き方の注意点として、次の業種に沿ってそれぞれ解説します。
- タクシー・ハイヤー業の場合
- ホテル・旅館業の場合
- 飲食業の場合
それぞれの業種別に詳しく解説します。
タクシー・ハイヤー業の場合
タクシーやハイヤーの領収書は、法律上、宛名の記載が義務付けられていません。ただし、お客様の経費処理の利便性を考慮し、可能な限り宛名を記入するようにしましょう。
ホテル・旅館業の場合
ホテルや旅館の領収書も、宛名の記載は法律上義務ではありません。しかし、宿泊者名や会社名を正しく記載することで、お客様の経費処理をスムーズにできます。
飲食業の場合
飲食店の領収書は、宛名の記載が必須です。特に接待交際費として経費計上する場合、宛名の記載漏れがあると税務署に認められない可能性があります。
宛名の便利な書き方のポイント
宛名の便利な書き方のポイントとして、次の3つの内容を紹介します。
- 宛名スタンプを活用する
- 宛名のテンプレートを用意する
- 電子領収書システムを導入する
それぞれのポイントの内容をみていきましょう。
宛名スタンプを活用する
よく取引のある企業や個人の場合、宛名スタンプを作成しておくと便利です。スタンプを押すだけで、正しい宛名を素早く記載できます。
宛名のテンプレートを用意する
エクセルなどで宛名のテンプレートを作っておけば、必要な時にすぐに印刷できます。手書きの手間が省け、ミスも防げます。
電子領収書システムを導入する
電子領収書システムを使えば、宛名の入力はもちろん、発行や保管までを自動化できます。経理業務の効率アップに役立ちます。
領収書のその他の記載事項
宛名以外にも、領収書には以下の情報を正しく記載する必要があります。
- 但し書き:領収した金額の内容や用途を具体的に記載
- 金額:領収した金額を算用数字で記載し、3桁ごとにカンマで区切る
- 日付:領収日を記載。和暦、西暦どちらでもOK
- 発行者情報:発行者の住所、氏名(または社名)、印鑑を記載
これらの情報も、宛名同様、正確に記載することが求められます。
領収書を発行する際の注意点
領収書を発行する際の注意点として次の内容を解説します。
- インボイスへの対応
- クレジットカード払いへの対応
- アルバイトが領収書を書いてもよいか
- 記入を誤った場合の対応
- 改ざん防止の対応
- PDFでの発行は問題ないか
後々のトラブルを防ぐためにも、紹介する内容を参考にしてみてください。
インボイスへの対応
買い手が仕入税額控除を受けるためには、領収書がインボイスの要件を満たしていなければなりません。具体的には、次の内容が必要です。
- 適用税率
- 区分ごとに記載した消費税額等
- 発行者の登録番号
領収書を発行する事業者は「インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)」として登録を受けている必要があります。未登録の事業者が発行した領収書では、買い手は仕入税額控除を受けられません。
記載事項としては、従来の記載項目に加えて、取引内容ごとの適用税率(8%・10%)を明記し、税率区分ごとの消費税額を個別に記載する必要があります。また、発行者の登録番号(T+数字13桁)の記載も必須です。
クレジットカード払いへの対応
クレジットカード決済の場合、領収書を発行する義務はありません。クレジットカード利用時に発行される「クレジット売上票」が領収書の代わりとなるためです。
取引先から領収書の発行を求められた場合は、「クレジットカード払い」であることを明記して発行します。クレジットカード決済であることを但し書きなどで明確にしておくことで、印紙税法上の「領収書」としての性質を持たないことを示せます。
クレジットカード決済による支払いであることを明記しておくと、金額が5万円以上の取引であっても収入印紙を貼付する必要がありません。クレジット売上票が既に発行されているため、二重に課税されることを防ぐための措置です。
アルバイトが領収書を書いてもよいか
法律上、領収書の発行は必ずしも経営者や正社員が行う必要はなく、アルバイトの従業員でも問題ありません。民法486条では「弁済を受領する者」が領収書を発行すると規定されており、実際に代金を受け取る係員であれば、アルバイトでも領収書を発行する権限があります。
ただし、アルバイトに領収書の発行を任せる場合は、事前に適切な教育を行うことが重要です。具体的には以下の点を、しっかりと指導する必要があります:
- 正しい日付の記入方法
- 金額の記載方法(改ざん防止の書き方)
- 但し書きの適切な記入
- 軽減税率対象品目の区分方法
- インボイス制度への対応
- 社印の取り扱い方
特に、記載ミスや不適切な発行による後々のトラブルを防ぐため、実際の発行前に練習を行うなど、丁寧な指導が必要です。
出典:e-GOV法令検索
記入を誤った場合の対応
領収書の記入ミスが発覚した場合、訂正印や修正テープによる修正は、改ざんの疑いを招く可能性があるため、一般的に認められていません。既に渡した領収書は必ず受取人から返却してもらい、新しい領収書を発行し直す必要があります。
返却された不備のある領収書には、大きく「×」を記入して無効であることを明確にします。無効となった領収書は、通常の領収書と同様に保管しておかなければなりません。 なお、領収書の再発行は原則として認められません。同一取引に対して複数の領収書が存在することで、売上の架空計上などの不正につながる可能性があるためです。
改ざん防止の対応
領収書の改ざん防止は、経理処理の信頼性を確保する上で重要で、特に手書きで発行する場合は気をつけなければなりません。 記入には必ずボールペンや万年筆を使用します。鉛筆やフリクションペンなどの摩擦で消えるペンの使用は、容易に書き換えができてしまうため、避けるべきです。また、金額を記入する際は、金額の前後に空白を開けないようにし、末尾には「-」(ハイフン)や「也」を付けます。
PDFでの発行は問題ないか
PDFなどの電子媒体での領収書発行は法律上問題ありません。しかし、電子データとして発行した後に紙の領収書も交付する場合は、その紙の領収書が原本となるため、5万円以上の取引については収入印紙を貼付する必要があります。一方、最初からPDFのみで発行する場合は、印紙税の対象外です。
PDFの場合は電子取引として扱われるため、受け取る側には電子帳簿保存法に基づく保存義務が生じます。電子データでの発行の場合も、記載すべき内容は紙の領収書と同様です。
出典:国税庁/問17請求書や領収書等を電子的に(データで)受け取った場合、どのように保存すればよいですか。
まとめ
領収書の宛名の書き方ポイントと、その他の記載事項をおさらいします。
- 会社名は正式な社名を略さずに記載
- 個人名はフルネームで書く
- 個人事業主の場合は「個人事業主」と添える
- 会社名と個人名を併記する場合は部署名もきちんと
- 業種によって宛名記載の義務が異なることに注意
- 便利な方法を活用して効率アップ
- 宛名以外の情報(但し書き、金額、日付、発行者情報)も正確に記載する
領収書の宛名の正しい書き方は、会社名や個人名によって異なります。宛名記載のポイントは、個人事業主・企業いずれも「正式名称」で記載することです。ケース別のルールを押さえ、その他の記載事項にも注意を払いぜひ正しい領収書の書き方を心がけましょう。
よくある質問
手書きで領収書を作成する際に、「★」マークを記入することは一般的ではありません。通常は「-(ハイフン)」「※(米印)」「也(なり)」を使用します。
ただし、領収書の用紙に予め「★」マークが印刷されている場合は、これを金額表示の接頭語として「¥」や「金」と同様の方法で使用可能です。例えば、印刷された「★」マークに続けて「100,000-」のように金額を記入します。この場合も、改ざん防止の観点から、「★」マークと金額の間に空白を開けないよう注意が必要です。
但し書きには、支払いの内容を具体的に記載することが重要です。単に「品代」という表現は税務上望ましくないため避け、具体的な内容を記載しましょう。複数の品目がある場合は、主なものを記載して「○○他」と表記します。
また、軽減税率の対象となる商品(食料品など)が含まれる場合は「弁当代(軽減税率対象)として」のように、その旨を明記する必要があります。
詳しくは「但し書き」を参考にしてみてください。