飲食店経営の新しい業態として、移動販売スタイルが注目されています。これはキッチン機能を搭載した移動販売車を店舗として、持ち帰りのできる調理メニューを販売するもので、開業資金や人件費が軽減されるため、飲食店開業のファーストステップとして広く採用されています。
以前はたい焼きやクレープなどのスナックが中心でしたが、最近では本格的なイタリアンやインドカレーなどのメニューを提供する店舗も増えており、特にオフィス街でのランチ需要が高まっています。中には実店舗を持ちながら、さらにプラスで移動販売事業を開始する飲食店も登場し、「実店舗はディナーのみ、ランチは移動販売」といったような兼業も見られるようになってきています。
新たに移動販売ビジネスに参入する事業者の方に向け、移動販売に必要な許可や資格、準備方法や出店のメリットなど紹介していきます。
移動販売に必要な許可・資格
移動販売を行うにあたって、事前に食品営業許可を取得する必要があります。
食品営業許可を取るには、移動販売を行う地域にある保健所に申請しなければなりませんが、この際、申込者が食品衛生責任者の資格を持っていることが条件となります。
食品衛生責任者の資格は、調理師や栄養士の資格を持っている方であればすでに有していることになりますが、いずれも持っていない場合には保健所が実施する講習会を受ける必要があります。1日のみの講習で取得できますので、無資格の方はまず保健所に問い合わせてみましょう。
関連記事:飲食店の営業許可とは~取得方法と申請の流れ・必要な書類
また、食品営業許可を取得する際には、実際に移動販売で使用する車両も申請する必要があります。
キッチン設備を搭載して車内で調理ができるようにした車両は、食品営業自動車という区分になります。よく「食品移動販売車」と間違われやすいのですが、こちらは加工済みの食品を販売するための車両ですので、移動販売業を行う場合には「食品営業自動車」として申請しましょう。
移動販売車の準備方法
移動販売に使用する車両を準備する方法には、以下の2通りがあります。
- 自作する
- 専門業者に依頼する
キッチンカーを自作する
自分でキッチンカーを作る場合は、保健所からの許可をもらうために必要となる設備を確認します。自治体によって求められる設備が異なるので、必ず移動販売を行うエリアの保健所に問い合わせるようにしましょう。
- 防水性のあるキッチン
- 防水性のある床
- キッチンと運転席の仕切り
- 手洗い用・調理道具洗浄用のシンク
- 水道用の蛇口
- 給排水タンク
これら基本となる設備のほか、機器を動かすための電源設備も必要です。
自作のメリットは費用を安く上げられることですが、その分手間はかかります。
キッチンカー専門業者に依頼
用意や工事を自分でやるのは大変そうと感じたら、キッチンカー専門業者に依頼する方が早いでしょう。専門業者はプロですので、自治体ごとのルールも把握しています。
自作よりも費用はかかりますが、確実に申請をクリアできる車に仕上げてくれることがメリットです。
移動販売のメリット
多くの飲食店を悩ませる感染症対策に優れているほか、移動販売にはさまざまなメリットがあります。
- 開業資金が安く済む
- 出店が容易
- 人件費がかからない
- 賃料がかからない
開業資金が安く済む
移動販売の最大のメリットは、やはり開業資金の負担が少なくて済む点です。実店舗を伴う飲食店の開業には、物件の確保から内外装工事費、厨房機器や椅子・テーブル等の購入までさまざまな費用がかかりますが、移動販売の場合はキッチンカーを用意するだけです。
一般に、店舗がある飲食店を開業するには、10坪程度の小さな店でも、場合によっては1,000万円以上の費用がかかることもあります。一方で、移動販売の開業資金は300~500万円程度が相場とされており、店舗型の飲食店の3分の1から半分程度の資金で開業できるのが、移動販売の利点です。
出店が容易
最初から移動を前提としたキッチンカーでの営業は、どこへでもお店を出せるというメリットもあります。来店客が少ない日は、その都度場所を変えることもでき、実店舗をもたない身軽さゆえの自由度の高さは魅力です。イベントが開催される日はその会場周辺に車を出すなど、確実に集客が見込める場所で営業できることも利点となります。
ただし、どの移動販売事業者も同じことを考えているので、イベント関連の情報収集と出店許可申請は素早く行うようにしましょう。
人件費がかからない
移動販売で提供する商品は食べ歩きや持ち帰りができるものとなるため、飲食スペースを設ける必要がなく、テーブルの清掃や食器下げ、食器洗いなどの作業も発生しません。店主一人で十分に切り盛りでき、最少の人件費での経営が可能になります。
また販売はお客様と1対1で行われることが多く、会計も複雑ではありません。後述するタブレット型POSレジなどを導入すれば、レジ締めの作業も一人で簡単に行えます。
賃料がかからない
実店舗の賃料は毎月決まって発生する固定費となり、お店をオープンしたばかりで売上が安定していない時などには大きな負担になります。コロナ禍で客数が激減し、賃料を払えずに閉店を余儀なくされた飲食店も少なくないと考えられます。
賃料がかからない移動販売は、先の見通しが難しい時代に適した営業スタイルなのかもしれません。
移動販売のデメリット
一方で、移動販売にもデメリットが存在します。
- 天候に売上が左右される
- 繁忙時に効率化できない
基本的に屋外で営業を行う移動販売では、商品の売れ行きは天候によって大きく左右されます。悪天候の日には、確実に売上が減ってしまい、あまりにもコンディションが悪ければ、営業自体できなくなってしまうこともあるため、安定した売上が見込めないというデメリットがあります。
また、夏の炎天下に車内で調理・販売を行うことで体力が奪われ、熱中症を発症するといったリスクも。季節や天候に応じて、快適な作業環境を整えられるように工夫しましょう。
もうひとつのデメリットは、繁忙時に効率よく販売を行えないことです。狭い車内にて一人で調理を行う移動販売では、用意できる商品数に限界があり、お客様はいるにも関わらず売り切れになってしまう場合もあります。
販売機会の損失は大きな痛手となり、店舗型の営業に比べて売上全体が少なくなることをあらかじめ認識しておきましょう。
タブレット型POSレジの導入で移動販売を効率化
タブレット型のPOSレジシステムは、移動販売の会計ツールとして大きな戦力となります。タブレット1台でレジ作業を完了でき、省スペース化や人材不足、オペレーションの最適化に一役買ってくれるでしょう。
関連記事:POSレジとは? POSシステムとの違いや 導入することで得られるメリットを解説
飲食店業に特化した「POS+ food(ポスタスフード)」は、レジ作業のほか、売上や商品原価などのあらゆる数値データを一元管理できるツールです。基本的に店主一人ですべての仕事をこなすことが多い移動販売業に適しています。
まとめ
移動販売ビジネスに参入する際には、必要な許可と資格をまず確認したうえで準備が欠かせません。また運営のコストやオペレーションの観点からPOSレジの導入もあわせて検討すること選択肢として検討していきましょう。
よくある質問
食品営業許可を取るには、移動販売を行う地域にある保健所に申請しなければなりませんが、この際、申込者が食品衛生責任者の資格を持っていることが条件となります。品営業許可を取得する際には、実際に移動販売で使用する車両も申請する必要があります。
多くの飲食店を悩ませる感染症対策に優れているほか、移動販売にはさまざまなメリットがあります。代表的な例として「開業資金が安い」「出店が比較的容易」「人件費を抑えられる」「賃料がかからない」などがあげられます。