法人は「給与支払報告書」を市区町村に提出する義務があります。これは事業者が市区町村に給与の支払い状況を報告するための書類で、毎年1月31日までに提出しなければなりません。
本記事では、給与支払い報告書の記入方法や記入時に気をつけるべきポイントを説明します。
給与支払報告書の種類
給与支払報告書とは、事業者が市区町村に対して1年間に支払った給与の額を報告する書類です。市区町村は、この書類をもとに給与所得者の住民税を算出します。期限は毎年1月31日までとなっています。
給与支払報告書には、個人別明細書と総括表の2種類があり、それぞれ記入内容が異なります。
・個人別明細書
個人別明細書には、事業者が給与を支払っている従業員についての内容を記入します。従業員の住所・氏名、給与の金額、社会保険料額などを記載します。いわば、市区町村に提出する源泉徴収票のようなものです。
・総括表
総括表は、個人別明細書をまとめる表紙のようなものです。事業所全体で支払った給与額等を記入します。
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個人別明細書の書き方と記入例
この項目では個人別明細書の記入方法を解説しますが、用紙は市区町村によって異なるため、記入する欄の位置などが変わる点に注意しましょう。例示するのは東京都港区のものです。
個人別明細書に記載する情報は、年末調整の書類からわかります。右上の欄には、対象となる個人番号(マイナンバー)を記入します。
① 実際に支払った給与額
従業員一人ひとりに対して、実際に支払った給与額を記入する欄です。
② 配偶者控除
従業員の配偶者の収入が配偶者控除の適用される範囲内の場合には、この欄に配偶者の収入額を記入します。
③ 配偶者以外の扶養家族
配偶者以外の扶養家族や障がい者の人数について書く欄です。
④ 社会保険料、生命保険料、地震保険料等控除
前年度に支払った社会保険料に、従業員が支払った生命保険料や地震保険料の控除額を記入します。
⑤ 摘要欄
摘要欄には、住宅ローン控除(住宅借入金特別控除)や控除対象配偶者、扶養親族の氏名と続柄などを記入します。16歳未満の扶養親族は、年少扶養親族であることを示すため名前の後に(年少)と入れます。
⑥ 生命保険料等保険料額
ここには従業員が1年間で支払った生命保険料等の保険料額を記入します。
⑦ 住宅ローン控除(住宅借入金特別控除)の詳細
住宅ローン控除を受ける従業員の場合は、給与所得者の住宅借入金特別控除申請書をもとに記入します。
⑧ 控除の対象となる扶養家族の氏名と個人番号
控除の対象となる扶養家族の氏名と、それぞれの個人番号を記入します。扶養家族がいない場合には空欄です。
⑨ 配偶者の所得額等
配偶者がいる場合には、配偶者の所得金額等を記入します。
⑩ 16歳未満の扶養家族の氏名と個人番号
16歳未満の扶養家族すべての氏名と個人番号を記入します。
⑪ 控除対象扶養家族が5人以上いる場合は個人番号を記入
16歳未満の扶養家族が5人以上いる場合は、この欄に個人番号を記入します。
⑫ 給与を受け取っている本人が特別障がい者に当たる場合は特別に〇を、それ以外の障がい者はその他に〇をつけます。
⑬ 年の途中で就職・退職した場合年月日を記入
年の途中で就職した従業員、退職した従業員の場合はその年月日を記入します。この場合の「1年」は1月1日から12月31日までです。4月に新卒で入社した従業員は中途就職となります。
⑭ 給与受給者の生年月日
従業員本人の生年月日を記入します。
⑮ 支払者の個人番号もしくは法人番号
給与を支払った会社の名称、住所、電話番号、法人番号等を記入します。
個人別明細書でよくあるミスは、住所やフリガナ、生年月日、個人番号など、個人を特定するための情報が間違っていて個人を特定できないケースです
また、個人別明細書の住所欄に住民登録外の住所を記載した状態で、従業員がその住所以外の地域で確定申告を行うと、二重課税の状態になってしまいます。住所の間違いには気を付けましょう。
総括表の書き方と記入例
次に、総括表の書き方を見ていきましょう。こちらも、例示するのは東京都港区のものです。
- 給与の支払期間
前年度に給与を支払った期間を記入します。令和2年なら令和2年1月から令和2年12月までが支払いの期間となります。 - 法人番号または個人番号
会社の法人番号を記入します。個人事業主の場合は、個人番号を入れましょう。 - 給与支払者郵便番号
事業所の住所の郵便番号を記入します。 - 給与支払者の住所と電話番号
事業所の住所と電話番号を入れます。 - 名称
会社名や屋号を記入します。 - 代表者の役職と氏名
ここでは代表者の印鑑が必要です。忘れずに押印します。 - 経理責任者の氏名
給与支払報告書と総括表を作成した責任者の氏名を記入します。 - 連絡者の係及び氏名並びに電話番号
総括表について理解している、連絡してよい係の部署と名前、電話番号を記入します。 - 会計事務所等の名称
会計事務所に依頼している場合には、会計事務所の名称と電話番号を記入する
会計事務所を頼っていない場合は空欄で大丈夫です。 - 提出区分
年間分に〇をつけます。 - 給与支払いの方法および期日
「月給」「毎月20日支払い」など、給与の支払い状況を記入します。 - 事業種目
サービス業・製造業など事業種目を記入する欄です。 - 提出先市区町村数
従業員が住んでいる地域に応じて給与支払報告書を提出するため、トータルでいくつの市区町村に提出するのか、その数を記入します。 - 受給者総人数
給与を支払っている人数を記入します。 - 報告書人員
市区町村に報告する人数を記入する欄です。 - 所轄税務署
管轄の税務署名を記入してください。
法人番号の記入忘れや内容の誤りには十分に気を付けましょう。経理担当者がない、一人法人の場合は経理責任者の氏名を記入する必要はありません。この場合、提出先市町村数、受給者総人員、報告書人員はいずれも「1」です。
追加報告や訂正があった場合は、「追加」「訂正」の区分を総括表と個人別明細書にそれぞれ書き、再度提出します。
従業員の住所が変わった場合は、給与支払者が「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届書」を提出します。この書類は、移動の理由が発生した月の翌月10日までに提出しなければなりません。
アルバイトの給与支払報告書の書き方
給与支払報告書の提出は、雇用形態を問わずすべての従業員の分を行います。パートやアルバイトの従業員でも提出しなければなりません。給与支払報告書は、年末調整の有無や収入額に関係なく提出する義務があります。
退職者の給与支払報告書はどうする?
年の途中で退職した元従業員に対して支払っていた給与についても報告する必要があります。ただし、支払い給与が30万円未満の場合には提出の必要はありません。
退職までに支払った給与が30万円以上で、給与支払報告書の提出義務があるのにもかかわらず元従業員と連絡が取れない場合には、入社時に登録していた緊急連絡先など、できる限りの手段でコンタクトを取るよう試みてください。念のため、証拠として連絡した日と時間はすべて記録しておきましょう。
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給与支払報告書の様式
給与支払報告書は手書きと印刷どちらでも構いません。
・手書き:手書きで対応する場合は、各市区町村から送られてきた用紙に直接記入するか、ホームページからダウンロードしたデータをプリントアウトして記入できます。
・印刷:データを入力して印刷したい場合は、各市区町村のホームページからエクセルやワードなどのデータをダウンロードして使用しましょう。入力後にプリントアウトして提出できます。
給与支払報告書の様式は、市区町村によって異なる場合があります。印刷の様式では、印刷してそのまま提出できるものもあれば、自分で切り取る必要があるものもあります。
給与支払報告書の提出
給与の受給者が1月1日時点に住所を置いている市町村にそれぞれ提出します。
提出の期限は毎年1月31日です。提出場所は市区町村によって異なりますので、わからない場合は該当する市区町村に問い合わせましょう。郵送による提出も可能です。
まとめ
給与支払報告書は、従業員それぞれの住民税を正しく支払うために必要な書類です。提出先は、従業員が1月1日時点に住所を置いていた市区町村です。支払う住民税に間違いがないよう、よく確認して書類を作成・提出しましょう。