「源泉徴収」という言葉は聞いたことがあるものの、いざ何かと聞かれたら上手く答えられない方は多いのではないでしょうか。特に従業員を雇用している方であれば、源泉徴収が意味するところは確実に押さえておきたいものです。
本記事では、「そもそも源泉徴収とは何か?」という点とともに、その税率や計算方法などについて詳しく解説します。
源泉徴収とは
源泉徴収とは、従業員の給与などから「所得税」を天引きする仕組みのことを指します。
源泉徴収の目的は、効率的に税金を回収することです。一般的に税金は、確定申告を行い、個人で納付することが原則とされます。しかし、国民一人ひとりから細かく申告を受けていては、国の業務がパンクしてしまいます。そこで、効率的に税金を徴収する仕組みとして源泉徴収という制度を採用しているのです。
源泉所得税と所得税の違い
源泉所得税とは、従業員の給与などから天引きする所得税のことを指します。一方、所得税とは「個人が稼いだすべての収益」に発生する税金のことです。
また、申告・納付する人もそれぞれ異なります。源泉所得税の場合、申告・納付は「従業員に給料や報酬を支払った人」です。個人で事業を起こしている人などは、収益にかかる所得税を「稼いだ本人」が支払わなければいけません。
さらに、納付時期も異なります。源泉所得税の場合は、基本的に毎月納税の義務を負います。一方で所得税の場合には、年1回、確定申告の時期に納付することが原則です。
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源泉所得税の対象になる人
会社や個人から雇用されて働く人の場合、毎月の給料や賞与から源泉所得税が引かれた額が支給されています。具体的には、会社などに1年を通じて勤務している人、また中途入社者が源泉所得税の対象です。
また、アルバイトも源泉所得税の対象となります。一定期間、定期的に雇用されるアルバイトは、税法上は「正社員」と同じ所得税の扱いとされているからです。そのため日雇いでない限り、基本的には源泉所得税の対象となります。
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しかし、以下の場合は対象とならず、個人で所得税の申告をしなければなりません。
【源泉所得税の対象とならない場合】
- 1年間に支払うべきことが確定した給与総額が2,000万円を超える人
- (災害減免法の規定により)その年の給与に対する所得税および復興特別所得税の源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた人
源泉徴収税の計算方法
源泉徴収税の計算方法は、大きくわけて2つあります。ひとつは「給与」にかかわる方法、もうひとつは「報酬」にかかわる方法です。
ちなみに給与とは、雇用契約を結んでいることを前提に「その労働に対して受け取る金銭」のことです。一方で報酬とは、「雇用契約のない個人事業主や法人が受け取る金銭」のことを指します。
以下にて、それぞれの源泉徴収税の計算方法を解説しますが、国税庁のホームページもぜひご参照ください。
参考サイト:国税庁|令和2年分 源泉徴収税額表
給与での源泉徴収の算出方法
従業員は、税金(所得税と住民税)や社会保険料が徴収されたあとの額を、給与や賞与として受け取っています。徴収される額はその人の給料や通勤手当、また扶養人数によって異なる点に注意が必要です。
給与にかかわる源泉徴収税を求めるためには、はじめに「課税対象額」を計算する必要があります。課税対象額とは、総支給額から、雇用保険料や社会保険料、非課税の手当てなどを差し引いたものです。具体的には、以下の計算式で求めることができます。
課税対象額 = 給与の総支給額 – 非課税手当(通勤手当など) – 控除する雇用保険料・社会保険料
そして算出された額を、国税庁が公表している「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」に照らし合わせることで、源泉徴収税を知ることができます。
アルバイトの源泉徴収の算出方法
アルバイトやパートであっても、源泉徴収の対象となります。ここで注意することは、そのアルバイトが副業として働いているかどうか、という点です。なぜなら、その人が別の場所でも働いているのか、または、ほかに仕事をもたない専従者かによって源泉徴収税が変わってくるからです。
アルバイトの源泉徴収税は、アルバイトに実際に支払う額を「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」と照らし合わせることで確認できます。
ちなみに、「給与所得の源泉徴収税額表」には月額表と日額表の2種類がありますが、源泉徴収税の対象は「定期的に雇用されること」が条件となっているため、基本的には「月額表」のみを使用して問題ありません。
また前述したとおり、副業とそれ以外で徴収する額が変わります。具体的には、副業の場合には支給額が少額であったとしても所得税の源泉徴収が必要となりますが、本業の場合には「月給88,000円未満」であれば源泉徴収の必要がありません。
さらに、本業として働くアルバイトやパートに対しては、あらかじめ「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」という書類を提出させる必要があることも併せて押さえておきましょう。
給与での源泉徴収の計算シミュレーション
給与にかかわる源泉徴収税について、具体的な数値を当てはめてシミュレーションをしてみます。なお、わかりやすさを重視し、簡素化した例・数値を用いています。
【従業員の源泉徴収税の例】
- 月額給与:160,000円
- 通勤手当:30,000円
- 雇用保険料・社会保険料:25,000円
- 扶養家族:0人
まずは、課税対象額を、前述にて示した以下の計算式をもとに求めます。
課税対象額 = 給与の総支給額 – 非課税手当(通勤手当など) – 控除する雇用保険料・社会保険料
このケースでは、課税対象額は「105,000円」です(160,000円 – 30,000円 – 25,000円)。そしてこの額を、「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」に照らし合わせます。
すると上図のように、ヨコ列の「105,000円(以上)」と、タテ列の「扶養0人」がぶつかる箇所が「1,030円」となることがわかります。この1,030円が、当月の源泉徴収税です。
【アルバイトの源泉徴収税の例】
- 月額給与:100,000円
- 通勤手当:なし
- 雇用保険料・社会保険料:10,000円
- 副業あり(「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出なし)
この場合、課税対象額は「90,000円」です(100,000円 – 10,000円)。これを、「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」に照らし合わせます。
すると、ヨコ列の「90,000円(以上)」と、タテ列(乙欄)がぶつかる箇所が「3,200円」となることがわかります。この3,200円が、当月の源泉徴収税です。ちなみに副業の場合には「乙欄」を確認します。
報酬での源泉徴収の算出方法
報酬にかかわる源泉徴収税は、以下の計算式で求めます。
【報酬が100万円以下の場合】
源泉徴収税 = 報酬 × 10.21%
源泉徴収の税率は長らく10%でしたが、2013年以降は東日本大震災に関わる「復興特別所得税(0.21%)」が加算され、10.21%となりました。
【報酬が100万円以上の場合】
報酬が100万円以上の場合には以下の計算式が用いられます。
源泉徴収税 = 報酬 × 20.42%
報酬での源泉徴収の計算シミュレーション
たとえば、ホームページの制作をデザイナーに任せ、その報酬として100,000円を支払ったとします。すると、以下のような計算式で源泉徴収税を求めることになります。
源泉徴収税 = 100,000円 × 0.1021 = 10,210円
このケースの場合、実際に手渡す金額は89,790円になります(100,000円-10,210円)。
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源泉所得税の納付
源泉所得税は、それを徴収する雇用者に納税の義務があります。法人として従業員を雇っている場合はもちろんのこと、個人事業主であっても、人を雇っているのであれば納税義務者に該当します。
源泉所得税の納付方法は、以下の3つです。
- 納付書:税務署から郵送される専用の用紙に記入し、納付する方法(税務署に常備されている納付書の利用も可)
- クレジットカード:「国税クレジットカードお支払サイト」を使い、納付する方法(領収書が発行されないこと、また納付時に決済手数料がかかる点に注意)
- e-Tax(国税電信申告・納税システム):ネット上の操作だけで納税できる方法(口座引き落としも選択可)
源泉所得税の納付期限
源泉所得税は、給与などを支払った月の翌月10日までに支払わなければいけません。費用として組み入れたタイミングではなく、実際に支払ったタイミングを基準とする点に気を付けましょう。10日が土日祝と重なった場合は、翌営業日が期限日となります。
ただし、後述する「源泉所得税の納期の特例」の承認を受けている場合、上記の限りではありません。具体的には、給与・賞与・退職金、そして士業への報酬支払いに関して、以下の納付期限が例外的に適用されます。
- 1月から6月までに支払った分:7月10日までに半年分をまとめて納付
- 7月から12月までに支払った分:翌年1月20日までに半年分をまとめて納付
また、源泉所得税にはペナルティが設けられている点にも注意が必要です。たとえば納期が一日でも遅れると、「納税額の5%」(不納付加算税)を一律に徴収されてしまいます。ただし、以下ケースではペナルティは免除されます。
- 不納付加算税が5,000円未満
- 直近1年以内に源泉所得税の納付漏れがなく、かつ納期の期限後1ヶ月以内に納付した場合
源泉徴収税の納期の特例
源泉徴収税には、「源泉所得税の納期の特例」と呼ばれる制度が存在します。この制度を利用することで、徴収した税金の納付回数を年に2回とすることができます。
ただし、この制度はどの事業所でも利用できるわけではありません。申請にあたっては、以下の2つの条件をクリアしていることが要件となります。
- 「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申込書」を税務署へ提出していること
- 給与の支給人員が常時10人以内であること
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まとめ
源泉徴収について、その定義や計算方法などについて解説してきました。一見すると複雑に思える源泉徴収の仕組みですが、一度コツを押さえてしまえば、さほど苦労せずに計算まで進めることもできます。
従業員を抱える店舗にとって、この計算は必ず知っておきたい知識です。お伝えした内容をもとに、漏れなく、そしてミスなく納税の義務を果たしましょう。