「WMS(倉庫管理システム)」という言葉は、店舗経営者や物流に携わる事業者にはなじみが深いものだと思います。しかし、在庫管理システムや基幹システム(ERP)との違いを問われると、うまく答えられない方も多いのではないでしょうか。
本記事では、WMSの意味や基幹システムとの違い、WMSを導入するメリット・デメリットなどについて解説します。
WMS(倉庫管理システム)とは
WMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)とは、「材料や製品が倉庫に入庫してから、出庫するまで」の一連の流れを管理する仕組みのことです。
一般に物流の5大機能として挙げられる「輸送」「保管」「荷役」「流通加工」「包装」のうち、倉庫内の業務は「輸送」を除く4つを担っており、物流業全体のうち大きなウェイトを占めています。WMSはこれらの4業務の効率を最大限に高め、品質向上を目指すシステムです。
WMSの機能には、主に下記のようなものがあります。
- 在庫管理・・・在庫の置き場所や数量の他、賞味期限や製造年月日なども管理
- 入荷管理・・・入庫スケジュールや、入庫時に貼り付けるラベルを管理
- 出荷管理・・・出荷予定を管理でき、ピッキングリストの発行も可能
- 返品管理・・・イレギュラーな返品在庫を管理し、情物の不一致を予防
- 棚卸管理・・・ハンディターミナルによる効率的な棚卸を実行でき、差異リストの発行も可能に
- 帳票・ラベル発行・・・納品書や値札、送り状、商品管理ラベルなどを発行
WMSの需要と目的
物流界でWMSが必要とされている理由は、倉庫業務を最大限に効率化し、倉庫内にある製品・材料等の在庫を適切に管理するためです。WMSの導入により、在庫の紛失や汚損を防ぎ、最少のスペースでこれまで以上の作業効率が実現します。倉庫管理業務のあらゆる課題を解決し、物流品質をアップできれば、顧客満足度の向上にもつながります。
インターネットショッピングの需要拡大に伴い、各家庭への宅配・配送のニーズは高まるばかりです。世の中にますます必要とされる物流業を支えるため、WMSによる適切な倉庫管理が求められているのです。
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基幹システムとの違い
WMSは、同じ物流管理システムである「在庫管理システム」や「基幹システム」、「ERP」と混同されがちですが、実際にはそれぞれ管理する「対象」が異なります。
具体的には、在庫管理システムは「在庫の入庫から出荷まで」を、基幹システムは「社内の全システム」を扱い、WMSは「倉庫業務」を管理するシステムです。
つまり、WMSは在庫管理システムの一部である倉庫業務管理に特化していて、さらにWMSと在庫管理システムを包括的に管理するシステムが基幹システムとなります。
基幹システムは仕入れから生産、販売、請求までを一貫して扱うため、社内在庫数は把握できても、入出庫やピッキングなどの具体的な倉庫内業務は管理できません。あくまでも経営情報全体を可視化するシステムで、限界があるため新たにWMSが構築されたのです。
WMSのメリット
WMSを導入するメリットを具体的に見ていきましょう。
- 標準化・自動化による工数削減
- 人件費削減
- 在庫情報の可視化
標準化・自動化による工数削減
WMSの導入により、これまで手作業で行っていたラベルのプリントや入出庫時間の記録が自動化され、作業工数が減って業務にかかる時間を短縮できます。在庫の置き間違いや、入庫スケジュールのチェック漏れなどのヒューマンエラーも無くなるうえ、製品を探すために倉庫中を歩き回ったり、予定を書き直したりといったリカバーに費やす時間も削減できます。また、どんなに在庫数が多くても、ハンディターミナルでバーコードを読み取るだけでデータを集約して管理できるので、誤入力のリスクも減らせます。
さらに、返品などでイレギュラーに在庫数が変動するケースでは、出荷履歴や在庫数の修正に加えて入荷予定の見直しといった煩雑な作業が増えるため、ミスが起こりやすくなります。そんな時も、WMSの返品管理機能があれば作業工数が増えず、効率良く短時間での対応が可能になります。
人件費削減
倉庫管理を任せられる人材を育てるには長い時間がかかるとされています。特に在庫の所在については熟練者の記憶に頼ることが多く「ベテランスタッフがいなければ現場が回らない」という会社も少なくないでしょう。
しかし、WMSがあればシステムによって在庫の配置場所を正確に把握でき、経験の浅いスタッフでも一定水準で作業を進められます。アルバイトやパートにも仕事を任せられるようになれば、正社員数の採用を減らせるため、人件費の大幅削減につながります。
また、作業の自動化によってそもそも人手が不要になり、従来の仕事をより少ない人数で回せるようになります。
在庫情報の可視化
WMSのハンディターミナルで在庫のバーコードを読み取ると、データが瞬時に本社の基幹システムに転送され、リアルタイムで状況を把握できるようになります。現場と本社のタイムラグが無いので判断を誤るリスクが減り、無駄な確認作業も生じません。また、今まで漠然と算出していた作業時間なども正確に把握でき、業務の課題改善にも期待できます。
在庫情報を可視化すれば、現場に足を運ばなくても内容を把握でき、特に賞味期限や使用期限がある食材を多く扱う業種においては非常に有効です。
さらにWMS同士を連携すれば、社内の他の倉庫との情報共有が可能になります。万が一、在庫が不足しそうな時は近くにある別の倉庫から自動で配送するなど、これまで実現できなかった 連携も可能になるのです。社内全体の物流を一手に把握することで、より広い視野で適切な判断を下せるようになります。
WMS導入のデメリット
WMSのデメリットは、どのようなシステムにもいえることですが、やはり導入コストや社員教育の手間が掛かる点です。自社運用するのであれば導入コストも多額になり、システムを使いこなせるようになるまで、スタッフの研修や教育にも費用と時間が必要になります。
WMS導入までには、下記の工数が必要となります。
<WMS導入までにやるべき事>
- 現在の倉庫業務の問題点の洗い出し/導入目的の設定
- WMSベンダーの選定
- 体験版の利用
- 社員・スタッフの研修、教育
最も大切になってくるのは、最初に挙げた倉庫業務における問題点の洗い出しと導入目的の設定です。課題や目的がはっきりしないままWMSを選ぶと、自社倉庫に必要な機能が備わっていないシステムを導入するおそれもあり、期待していた効果が得られないまま多額のコストだけを失ってしまいます。
何を目的としてWMSを導入するのか、どんな問題を解消したいのか、必ず明確にしてからベンダー選びに着手しましょう。
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まとめ
WMSは、倉庫業務の効率化・最適化には欠かせないシステムです。年々物流業界へのニーズが高まり続けている今だからこそ、できるだけ少ない労力で大きなパフォーマンスを生み出さなければなりません。自社の倉庫業務を改善すべく、導入目的から逆算してWMSの導入を考えてみましょう。