経理の間違い等によって売り上げを少なく申告してしまっていたり、経費を多く申告してしまったりして、正しい納税額とは異なる税額を納めてしまうことがあります。このような場合は修正申告を行い、正しい税額を納めればよいのですが、明確な意思で税金が少なくなるように申告することは脱税に当たり、刑事罰を受けることもあります。
ここでは、脱税とは何か、節税との違いや脱税した際のペナルティについて説明します。
脱税とは
脱税は、違法な手段を用いて納税額の一部、または全部を納めないようにすることをいいます。例えば、使っていない経費や経費に当たらないものを経費計上したり、売上の一部を隠したりといった方法で行われます。
納税は義務であるため、こうした行為で納税を免れのちに発覚した場合、本来納めるはずの税額よりも多くの税を支払うことになり、悪質な場合は刑事罰に処されることもあります。
節税との違い
同じ税を減らすための行為でも、脱税と節税では大きな違いがあります。
節税は、あくまでも法に従いながら「税金を払いすぎないようにする」ためのものです。税制で定められた税控除制度を活用する、事業に使用するものを購入して経費計上して利益を減らすなどの行為は、法令の範囲内の方法で行われます。
一方脱税は、法を無視した方法で税の負担を軽くしようとする行為です。
租税回避との違い
租税回避とは、法律上有効な取引を行いながら、課税要件を回避するような行為や、税控除等の税が軽減される規定の要件を満たすようにする行為を指します。脱税が税法に違反する行為なのに対し、租税回避は法の抜け道を通るような行為といえます。
課税逃れ・所得隠しとの違い
課税逃れと所得隠しは、ほぼ同様の意味合いの言葉です。課税逃れ・所得隠しはどちらとも違法な手段によって、意図的に税額を減らそうとする行為です。脱税と同じような言葉ですが、脱税よりも悪質ではないときに使われることが多い傾向です。
申告漏れとの違い
申告漏れは、端的にいうと経理処理のミスのことです。脱税のように明確な意思を持っているわけではなく、経費として計上できないものを誤って経費計上してしまった、売上の計上を忘れてしまったなどの間違いが申告漏れに当たります。
なお、申告漏れの場合は刑事罰に処されることはないものの、税務調査によってミスが明らかになり、申告よりも利益が大きければ追徴課税の対象となります。
脱税となるケースの例
脱税とされるのは、次のような行為です。
- 売上の過少申告
- 架空の経費を計上する
- 期末在庫を減らす
- 仕入れを水増しする
- 事業実態のない会社と取引があったように見せる
実際の売上をなかったことにする、額が小さかったことにするなどの売上の過少申告、架空の経費計上、在庫を実際よりも減らすなどの行為は脱税に当たります。
売上の過少申告
売上の過少申告はよく見られる脱税の手法で、税務調査によって発覚しやすいのもこの方法です。現金で得た売上金を隠す、バーゲンなどの特別な売り上げを計上しない、個人口座に入金された売上金を隠すなどの方法で行われます。
これらの方法を使って過少申告を行っても、取引先にある書類などで発覚します。
架空の経費を計上する
架空の経費計上は、領収書を偽造する、架空の人件費を計上する、商品券を購入して得先等に贈ったふりをしてポケットマネーにしてしまうなどの方法で行われます。
架空の人件費は、源泉徴収簿などから脱税が発覚します。領収書の偽造も、お金を受け取ったとされる側にその証拠がなければ発覚するでしょう。
期末在庫を減らす
仕入れた在庫は、商品が売れて初めて原価として経費計上できます。在庫の時点では資産になってしまうため、在庫を破棄したり棚卸し表を書き換えたりといった方法で期末在庫を減らして脱税が行われることがあります。
仕入れを水増しする
仕入れを多く計上することで、経費を増やして利益を少なく見せる方法です。帳簿上、仕入れの単価や数量を増やすなどの方法で、なかった仕入れをあたかもあったかのようにして経理処理します。
事業実態のない会社と取引があったように見せる
事業実態のない会社、いわゆるペーパーカンパニーを設立して架空の取引や経費を計上する方法です。ときには、ペーパーカンパニーに売掛金を残した状態で倒産させて、貸倒金を経費とするような方法も見られます。
ペーパーカンパニーによる脱税は、出資者や設立の経緯等を調査されるとすぐに発覚します。
脱税はどのようにしてばれるのか?
税務署は、税務調査や資産状況の確認・調査、第三者からの情報提供などで脱税を見つけています。
- 税務調査
- 資産状況
- 密告
税務調査
税務調査は税務署が行うものです。税務調査の前には、税務調査を行う旨の連絡が入り、その後調査にやってきます。税理士に申告を依頼している場合は、税理士に連絡が届きます。もし、何の連絡もなく税務調査員が訪れたときには、税理士が来るまで待ってもらうように言ってもいいでしょう。
脱税額が大きい場合は、国税局の査察部が査察調査に訪れることもあります。
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資産状況
事業では赤字なのに、なぜか資産が増えている……という状況から発覚するケースもあります。特に不動産を得た場合は法務局に登記を行うため、資産状況をチェックされると「赤字なのに不動産を買う余裕がある」ことから調査が行われ、脱税が発覚することもあるようです。
密告
周囲の人が、「脱税をしているようだ」と税務署や国税局に密告することで発覚するケースもあります。
今では、電話や郵便に加え国税庁のホームページからも情報を提供できるようになっています。密告では、財産を隠している、他人名義の口座にお金を流している、虚偽の売上を申告しているなどの情報提供によって、脱税が発覚しているようです。
脱税がばれた際のペナルティ
脱税が発覚すると、追徴課税に加えて付帯税も課せられます。
- 加算税
- 延滞税
- 利子税
加算税は、納付すべき税を納付しなかった部分に対する税で、悪質な脱税ではより重い重加算税が課せられることがあります。延滞税は、期限までに納付されなかった税金にかかる延滞金のような税で、利子税は分納の際の延納に対して課される税です。
加算税
加算税には、次の4つの税があります。
- 過少申告加算税
- 無申告加算税
- 不納付加算税
- 重加算税
これらの税のうちどの加算税が付帯されるのかは、脱税の悪質性によって決まります。
過少申告加算税
過少申告加算税は、申告期限内には申告を行っていたものの、正しい納税額よりも申告額が少なかった場合に課税されます。過少申告加算税の課税割合は10~15%です。
無申告加算税
無申告加算税は、申告期限までに申告を行わなかったときに課される税です。無申告加算税は、15~20%加算されます。
不納付加算税
不納付加算税は、源泉所得税を納付期限までに納付しなかったときに課されます。この税は、10%が加算されます。
重加算税
重加算税は、意図的に納税額を隠ぺいし、さらに過少申告・無申告などを行う悪質な脱税に該当する際に課税されます。重加算税では、35~40%と他の加算税よりも加算率が大きくなります。
延滞税
延滞税は、税の納付期限を過ぎて納付する際に課される延滞金のようなものです。万が一納付を忘れてしまったときには、なるべく早く税務署に出向き、納税が遅れた旨を伝えましょう。
利子税
利子税は、税額が大きく一括で納付できずに分納するときに、納付が延びた分に対して課される税です。これは分納した税を完納するまで課されます。
脱税には時効がある?
税金の納付には時効があります。通常の申告では3年、申告期限内に申告を行わなかった場合は5年、脱税は7年で時効となります。時効の年数が過ぎた後に税務調査が行われて、万一不正等が見つかったとしても、国税局や税務署は税を徴収できません。
ただし、脱税の場合の7年の時効は、税務署が税金の発生の事実を見つけられなかったときに有効になるものです。7年間に1度でも督促や差し押さえを行われれば、時効のカウントはリセットされます。
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確定申告時の節税ポイント
一時の税の負担を軽くしたいからと脱税を行うと、税務調査が行われるだけでなく、さらに重い税を支払うことになる場合もあります。税の負担を軽くしたいのなら、脱税ではなく節税を行うようにしましょう。
節税の方法には、主に次の2つがあります。
- 青色申告特別控除を利用する
- 経費となるものを正しく把握する
青色申告特別控除の利用によって、申告時に65万円を所得額から控除できるようになります。また、経費を正しく計上することも大切です。
青色申告特別控除を利用する
青色申告特別控除の適用を受けることで、所得から65万円を控除して所得税の負担を軽減できます。青色申告の特別控除を受けられるのは、次の3つの要件を満たしているときです。
- 複式簿記で帳簿を記帳している
- 貸借対照表および損益計算書を確定申告書に添付し提出している
- 青色申告承認申請書を税務署に提出し、承認を受けている
経費となるものを正しく把握する
何かを購入したとき、会食を行ったときなど、それらが経費として認められていることを知っていれば、正しく経費計上を行い、税負担を軽減できます。経費を計上し、その分利益を抑えることは、所得税の軽減につながります。
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まとめ
脱税も節税も、事業にかかる税の負担を軽減したい思いから行われるものですが、法律を違反して脱税を行えば、さらに重い税を課されるばかりか刑事罰に処されることもあります。リスクなく、正しく税の負担を軽減するために、節税の方法を知り実行してみましょう。経費を正しく計上するだけでも、税の負担を減らせるかもしれません。